小説

『蘇る昔話の神』霧水三幸(『長者ヶ森(山口県)』)

 季節柄薄着だったのもあり、破裂にも似た音が小気味よく清い空気を震わせる。
 想定より力を入れすぎた手について遅れ馳せながら後悔の念がこみ上げてきたが、どうやらその必要はなかったようだ。

 彼は本当に破裂していた。

 破れた背中から空気が抜け、開いた穴の周りからさらさらと砂がこぼれ出していく。

 ざらざらざらざらざらざらざら、ざぶざぶざぶざぶざぶざぶざぶざぶ。

 肉色の砂の中には小銭や紙幣がいくつも紛れ込んでいて、それらが落ちる度に軽重それぞれの衝突音が地面から聞こえた。
 景色を眺めていたままの表情ごと萎んだ彼のぬけがらはみるみるうちに崩れ落ち、それもじき砂になって崩れ落ちる。
 ――後に残るのは、茫然自失で立ち尽くす私。
「……そ、っか」
 数分そのままで何も考えられなかったが、ようやっと働き出した思考が導き出した一つの結論。
「昔話は、本当の話だった」
 昔話に出てくる女には、神が憑いていたという。
 憑かれる才能があるとすれば、それは一見貧しい家を助けるために行動し、夫が堕落しても文句を言わない程に謙虚である事だと思われる。
 だが、おそらくそれは違う。
 神はきっと、現状を変えたいという強い願いに反応しているのだ。
 その感情のベクトルが正か負かなど、人間の価値観や倫理観などはきっと一切意に介していないのだ。
 私は、半ば無意識にこの人が超常現象か何かで消えてくれれば平穏無事に未来が変わるのにと思った。
 だから、こうなった。
「……ふふ」
 笑いが、込み上げてくる。
 金銭を拾い上げると、私は森を後にしてタクシー会社に電話した。
 憑き物が落ちたように身体が軽い。実際は憑き物が憑いたという真逆の状況なのに滑稽な話だ。
「……帰らなきゃ」
 まだまだたくさんいる嫌いな人間を、私を抑圧する邪魔な人間を金銭に変えて役立てる。

 そんな楽しみが、この先たっぷり待っているのだから。

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