小説

『Who is ぷりんせす』藤井あやめ(『シンデレラ』)

都心からそう遠くもない郊外の片隅。
緑生い茂る公園は、いつも誰かを温かく受け入れている。
初夏の太陽は真っ直ぐに地面を照らし、頬を撫でる風は透き通っていた。

砂場にしゃがみ込む三人の子供達。6歳位だろうか、小さな背中を猫の様に丸め砂山を両側から器用に掘り進めている。
「貫通したね〜!」
「やった!やった!」
砂でまだらになっている手をパチパチと合わせて喜ぶ女の子2人と、砂山に乾いた白砂をサラサラとかけ、仕上げをしている男の子がいる。
三人はトンネルの完成式を賑やかに行うと、次は何して遊ぼうかと手についた砂を払いながら話し合う。

「ねぇねぇ、お姫様ごっこにしない?私白雪姫ね」
「私はオーロラ姫!」
「じゃあぼくは…」
シンデレラと言いかけた時、
「ミツル君は男の子だから王子様やって!」
と、白雪姫役のモモが無邪気に言った。
「ミツル君、私はオーロラ姫だからね、眠りについちゃうの。だから、あとで助けにきてね」
「あーずるい!私も毒リンゴ食べて死んじゃったら馬に乗ってミツル君来てね」
オーロラ姫のカナに先を越され、白雪姫のモモも必死に王子様の来訪を頼んだ。
「うん、わかったよ」
モモとカナは、それぞれのプリンセスになりきると、自分のお城の話やそれぞれの生い立ちを、世間話の様に語りはじめた。
「ミツル君、ちょっとしたら私達を助けにきてね」
平和の真っ只中にいる姫達を助ける理由など全く思いつかないのだが、ミツルは大人しく公園を一周りして、また戻ってくる事にした。
空は青くて広い。風は爽やかで気持ちがいい。僕は王子より…お姫様になりたかったな。

 
ミツルは夢中で役になりきるモモとカナを後にすると、公園の端をなぞる様に歩き始めた。この公園はよく遊びにくるのでどこに何があるかミツルはよく分かる。ベンチ、ブランコ、お祭りの道具が入っている倉庫。落ちていた棒切れで地面を突きながら、ミツルはのろのろと歩いた。
公園の隅に設置されている倉庫までたどり着くと、にょろりの茶色い猫の尻尾が倉庫下に入っていくところだった。ミツルは慌てて倉庫下を覗き込む。
「おーい!」

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