ミツルは先ほどの尻尾の主に声をかけてみる。しかし、よくよく目を凝らして見たが、すでに猫はいなかった。その代わり、倉庫の下には風に追われた枯れ葉やゴミがカサカサと揺れミツルに返事を返した。
あれ?何か奥で光を反射している。ミツルは持っていた棒でその光の元を引き寄せた。
それは掌ほどの小さな靴だった。エナメル素材で艶々と光を反射している。片方だけ、風に運ばれずっと倉庫下に埋もれていたのだ。
ミツルは汚れやホコリを払うと、その靴が薄いピンク色だということが分かる。胸がドキッと高鳴った。誰かの落とし物だろう。
ミツルはその小さな靴を手放せず、そのまま掌に包み込みモモとカナの元へ戻ることにした。
二人は相変わらず和やかに世間話を続けている。ミツルがいない間、毒リンゴを食べたり、100年の眠りについたような形跡はない。
「あ、ミツル君。それなあに?」
靴に気づいたカナが指差した。
「あ、これ見つけたんだ。」
艶々と可愛らしいその靴は、一瞬で二人の姫達を虜にした。
「まあ!それ、私の落としたガラスの靴だわ!」
モモが口を押さえながら叫ぶ。
「いいえ!私の落としたものです、王子様!」
カナも両手で頬を押さえて主張した。ミツルの前の白雪姫とオーロラ姫が突然豹変してしまった。
「いいえ、これは私のよ」「違うわ!私が落としたのよ。」
半ば喧嘩になってしまいそうな雰囲気に、ミツルは慌てていい加えた。
「この靴さ、すごい小さいし。きっと誰かの忘れ物だよ」
急に現実に引き戻された姫君達は、ため息をつきながらミツルを見つめる。
「ミツル君。わかってるよ、そんなの。」
「お芝居だよ、お姫様だもん。」
「それにしてもさ、この靴かわいいね。」
「誰が落としたんだろ。でも…結構汚れちゃってるね。」
ピンクの小さな靴は、倉庫下で雨風は凌げたものの、苔の様なシミが何年も放置されていた事を物語っている。
「あ、もう5時だ!」
夕焼けにチャイムが鳴り響く。公園にいる人達がポツポツと散りはじめた。
「帰らなきゃ。また明日も遊ぼう!」
「うん!また明日ね」