小説

『ある日、図書館で』石咲涼(『三枚のお札』)

 滑り台があった辺りには花壇ができ、一面に薄紫の花が咲いていた。きれいだね~と喜ぶ娘を見て、私も同じくらいの歳にこの花が大好きだったことを思い出した。
 二人で手を繋いで美しさにみとれていると、薄紫の花々は幾重にも重なりながら浮き上がって天まで昇っていった。
 私は瞬きをした。これは夢だろうか。どこかで見たことがある。
 ああ残りのお札に描かれた絵だ。
 花々から薄紫のベールのような光がさしてきて私達を包んだ。
(世界がどうであろうと、私がどう見ているかなんだ)
 ふいにそう思うと、光が体の中を柔らかく抜けていき、閉じた耳の奥が少しずつ開放されていくのがわかった。
 私はいつまでもこの余韻に浸っていたいと願わずにはいられなかった。

1 2 3 4 5