小説

『鬼』いいじま修次(『金太郎』『桃太郎』)

「――目が覚めたかな? まだ意識がハッキリしていないと思うが、じきに良くなる。そのまま寝台で横になっていなさい」
「オ、オラは……」
「ここは島の病院でね。君は、外部からの侵入者を防ぐ為、海水へ含ませておいた特殊な薬によってこうなったという訳だ。体に害は無いから安心したまえ」

 金太郎は起き上がろうしたが、力が入らず、肌色鬼の方へ体を向けるのがやっとだった。

「ほう……さすがは金太郎君。体をもうそこまで動かせるとは、並の筋力ではないね」
「オ、オラの名前を……」
「勿論知っているよ。この国で我々を退治しようと考え、それなりの力を持っている人間の事は全員調べてある」
「オ、オラを……どうする気だ……?」
「それはこちらが聞きたいね。君はこの島へ上陸し、我々をどうする気だったのだろう? 見張りの鬼達を見るなり、マサカリで襲いかかろうとしたというのは事実かな?」
「お、鬼は……悪者だ……やっつける……」
「この状況で嘘をつかないとは凄いね。それから、我々が改心していない事を見破った事も凄い。――先日鬼退治をさせた事で、この島には当分誰も近付かないと考えていたが、油断していたよ」
「鬼退治を……させた……?」
「そうだよ。彼は君と違い、降参と言えば攻撃を止めるからね。都で適当に悪さをして、彼に鬼退治を仕向けたのだよ。我々は存在を知られ過ぎるのを好まないのでね、少し忘れさせる為に茶番を仕掛けたという訳だ」

 肌色鬼は、液体の入った薬瓶を手に、金太郎に近寄った。

「安心したまえ。毒等ではなく、少しだけ記憶を無くす薬だよ。これを飲んでもらった後、君は無事に故郷の山へ返してあげよう。イヌとサルはすでにそうしたからね。君は彼の真似等しなくても、今まで通り山で暮らしていれば、侍に認められて鬼退治の茶番をするはずだよ」
「お、お前らは……一体……」
「鬼はね、人間とは比べようもなく全てが優れているんだよ。知能や体力だけではなく、寿命も長いし、予知能力も備えている。それでも一つだけ悲しい事は、人間の想像から生まれた我々は、人間が存在を信じていないと消えてしまうという事なんだ……。本当は人間などいらないが、消してしまえば我々も消えてしまう。だから我々はいつの世も、鬼の存在をボンヤリと人間に感じさせながら生き続けていくしかないんだよ。言葉や行事等に入り込んでね――」

 肌色鬼は、金太郎の口に薬瓶を添え、液体を飲ませた。

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