小説

『鬼』いいじま修次(『金太郎』『桃太郎』)

「よっしゃ。鬼どもめ、分かる人にしか分からんだろうが、まずは金太郎様得意の頭突きをくらわし、それからマサカリでパッカーンと二つに割ってやる」

 そう言って、小舟に乗せておいたマサカリを力強く握る金太郎に、イヌが話しかけた。

「金太郎さん、お待ち下さい。向こうがいきなり攻めてこない限り、まずは様子を見ましょう。もし鬼達が本当に改心をしていたとすれば、こちらが悪者になってしまいますから」
「だからそんなの信じねえって、さっき言っただろ」
「でもですね……」
「――あ、何か来るっスよ」

 サルの声に、金太郎とイヌが島の方へ目を向けると、赤、青、黄色の三匹の鬼が舟に乗り、近付いて来る姿が見えた。

「コラー! その舟、止まれー!」と、赤鬼が叫んだのを耳にして、金太郎はニヤリと笑った。
「ほれ、言った通りじゃねえか。あれが心を変えたように見えるか?――やかましいや! かかって来いやー!」

「来るならもう少し右に舵を取って進めー!」と、青鬼が叫んだ。

「何をゴチャゴチャ言ってやがる!」と、金太郎がマサカリを振り上げたその時――小舟が「ガツン!」と海中の岩に勢いよく当たり、その拍子に金太郎達は海へ投げ出された。

「あーあ、注意したのに……。この辺りの浅瀬は岩だらけで危ないんだぞ……」と、黄鬼が言った。

 鬼達は海中の岩に気を付けながら舟を進ませると、金太郎達を救い上げ、鬼ヶ島へと運んで行った。
 金太郎は泳ぎが得意なのだが、この辺りの海水には何かの成分が濃く含まれているらしく、体がシビレて意識も薄れてしまい、イヌとサルも同様の状態であった。

―・-・-・-・-

 意識を戻した金太郎が目を開けると、側にいた白衣姿の肌色鬼が、声をかけた。

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