透子は慌てて封筒をつき返してくる。
「舐めないでくれる?別に自分の持ち金全部あんたに捧げる訳じゃないし。特別に無利子で貸すだけだよ。今すぐの使い道、無くなったから」
「・・・・なんでこんなにしてくれるの?」
「だから、してあげるって言うより、今この金は必要なくなっただけ。そこそこの部屋で安定した一人暮しを始めようと思って貯めてたけど、あんたの話聞いてたら、自分の家がすごいマシに思えてきて、まだしばらくは実家暮らしでいいかって考えに変わったの」
透子は、綺麗な目で僕を見上げる。真っ直ぐだけど、柔らかくてキラキラした眼差し。正直、ゾッとするから止めてほしい。
「あんたがどこでどう自分の金の使い道間違えようが、騙されて盗られようが、どうでもいいけど、俺が渡したその金だけは、あんた意外の人間に消費させないで。絶対に」
「うん、わかった。・・・わかった。大切に使う。ちゃんと生きられるようになる。そうなったら、返しに来るよ」
「借りたもの返すなんて当たり前だから。ちゃんと報いてね。少しは面白くなってきて」
透子は首を傾げてから、とりあえずという風に頷いた。電車が来た。僕は彼女のキャリーバッグを引いてやった。透子は、緊張した表情だった。でも、怖気づいてはいない。電車がホームに止まって、ドアが開く。
「行ってこい」
僕は言った。透子は電車に乗り込んで、僕と対面する。
「ありがとう」
彼女がそう言って、扉が閉まり、電車は走り出した。
「そうやって心底信じちゃってるのが、駄目なんだって」
電車を見送りながら、僕はそう呟き、こう念じていた。汚れろ、絶望しろ、踏みつけにされろ、と。他によって潰されるのではなく、自分の意志で穢れにまみれろ。だって、透子がそれを全て自分の力で祓えるような人間になったとき、彼女に「貸し」があるなんて、想像しただけでわくわくする。