小説

『未来を映す鏡』三坂輝(『よくばりな犬』)

 やっぱり今日は失敗させられた。仕事の依頼はなくなるだろう。コウヘイさんからも連絡がこなくなったら、誰からも仕事がもらえない。
 わたしは、鏡の向こうにほのかに見え隠れする、あの子に怒鳴りたくなった。
 すると、そう思っただけで、イメージのあの子が卑屈な顔になってきた。嫌な顔してるよ、あんた。やっぱり、嫌だ、この……あの顔は。
 でも誰にでも、ひとつくらいの取柄はある。あの笑顔の形はわるくなかった。ワンパターンでも、嫌われない笑顔をしていた。
 思い返して、試してみる。目を大きく開いて、口角を左右に引いて、そのまま上げる。目はつぶさず。そして、少し歯を見せる。笑顔の形のワンパターンだ。
 くちびるの隙間から、何かが漏れる。鏡の向こうのあの子からも、わたしからも何かがなくなって、軽くなった。
 2時22分。
 これが未来。やっぱり都市伝説だ。
 わたしは笑った。あっ、いまの、もっと良い未来。

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