小説

『待ち合わせ』松野志部彦(『浦島太郎』)

 ――ここで、待ってるからな。
 たまらず歓声を上げ、僕は裸足のままに波打ち際を駆けた。蹴飛ばした水飛沫が夕日にきらきらと輝く。不思議と体は軽く、昔のように、どこまでも駆けていけそうな気がした。
 ふと背後へ振り返ると、空と海の狭間に、あの日のままの由佳の姿が見えた気がした。それから、竜宮城から帰ってきた浦島太郎が辿った運命を、僕は思い出す。
 まるで逆玉手箱。
 そんなくだらないことを考えて、僕はまた笑いだす。呼応するかのように海もまた震えていた。

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