小説

『選ぶって上から』志水菜々瑛(『花いちもんめ』)

――負けて悔しい花いちもんめ
――隣のおばさんちょっと来ておくれ!
 体育館に集められたあの日、花いちもんめは人身売買の歌だと、先生が言っていた。花いちもんめを禁止するための、表向きの理由だと思っていた。
――お布団被ってちょっと来ておくれ!
――お布団びりびりいかれない
――お窯被ってちょっと来ておくれ!
――お窯底抜け行かれない
 どうにかして行くのを拒む。確かにこれはそういう歌に聞こえる。なんて残酷な遊びだろう。私を見て。私を選んで。皆がいるそっちに、私を入れて。
「きぃーまった!」
 歌が終わった途端、ミチが叫んだ。ミチ一人の声が、教室に響き渡った。相談なんてしていなかった。ミチが一人で決めた。だけど、向こう側のチームは、みんな手を繋いだまま笑っている。くしゃくしゃに笑うミチの瞳は見えなくて、その奥に何があるのかわからなかった。
 ミチを選ぶことは決まっている。「きぃまった」って言わなきゃ。言わなきゃ。その時、チャイムが鳴った。向こう側で結ばれていた手はほどかれ、わらわらと散らばった。いつもの仲良しグループでかたまり合い、「案外楽しかったね」「机戻そうぜ」と方々から聞こえた。
 私たち4人は手を繋いだまま、ミチを見つめることしかできなかった。

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