小説

『選ぶって上から』志水菜々瑛(『花いちもんめ』)

 ミチはいつも、茶道部の女の子達とまとまっていた。おかっぱと、ひとつくくりと、そばかす眼鏡とミチ。ミチはおかっぱと同じクラスで、ひとつくくりと眼鏡が同じクラスで、昼休みになるとミチのいるクラスに集まった。中学生になると給食はなくなって、4人で弁当をつまんでいた。4人とも猫背で、前髪や眼鏡を時折触り、互いにだけ聞こえる大きさで言葉を交わし合い、たまに肩をすくめて笑った。私たちは、無意識に自分に適した人を見つけ出し、気の合う仲間と身を寄せ合う。

 おさまるところにおさまった私たちをかき乱すのは、無神経な大人だ。夏休みが明けると、担任の先生が変わった。緑山先生は産休に入りました。今日から、わたくし大村が、この1年A組を担当します。よろしく! 大村は担任を持つのは初めてだと言った。私のいとこのお兄ちゃんと同い年くらいで、日焼けした髪の毛は固め上げられ、太くて濃い眉毛が暑苦しかった。張りきった様子の大村は、クラス会をやると言い出した。クラスで親睦を深めよう。僕も皆と仲良くなりたいからな。前半は建前で、本音は後半だった。私たちは1学期の間に誰と親睦を深めるか、もう決め終わっている。二学期が始まったばかりで、授業に余裕があるらしかった。次の火曜日の5・6時間目に、クラス会が行われることが決まった。
 大村の企画したクラス会はそこまで盛り上がりを見せなかった。雨のせいで予定していたドロケイはできなくなったし、ビンゴ大会の景品は大村手作りの紙手裏剣や紙飛行機だったし。大村の一存で企画されたこのクラス会を盛り上げてあげるほどの親切心と手腕を持ち合わせた人もいなかった。
 クラス会は6時間目を丸々残してやることがなくなった。スムーズに進行しすぎたのだ。追い詰められた大村は突拍子もないことを言い出した。
「花いちもんめをやろう」
 焦ったゆえの提案だったように思う。唇をやたら舐めていたし、自分の手をしきりにいじっていた。私たちは半分に分けられ、教室の両端にそれぞれ分かれた。中学生になって、異性に敏感になり始めていた私たちは、手を繋ぐのを恥じらった。それを察した大村は「男女混合で手を繋ごう。恥ずかしがるな、親睦会なんだから」と言い、教室の雰囲気を一層自分の思い描く方向にいざなった。
 手を繋ぎ、陣営が向き合うと、大村が誰よりも大きな声で歌い始めた。
「かーって嬉しい花いちもんめ!」
「大村、勝ってないだろうよ」
 私のチームの颯くんが文句をつけると、いいから、ハイ続きと、大村は笑って促した。
――まけーて悔しいはないちもんめ
 一人が声を張り上げると、安心して大きな声を出せるようになる。少しずつ、歌声が大きくなった。小学校によって、歌詞に少し違いがあるようで、口元が迷っている子もいた。でも、歌をわざわざ止めるなんてことはしなくて、先導する声が紡ぐ歌詞が正解だった。

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