――あの子が欲しい!
――あの子じゃわからん!
私は気づいた。向こう側チームの歌声の中で、ミチの声がわずかに目立っていることに。あのトロく大人しいミチが担任の先生の隣を確保し、教室で大きな声を発している。
――相談しよう!
――そうしよう!
大村とミチのいるチームは円を作ると、颯くんを指名した。私たちのチームは颯くんと仲の良い、サッカー部の期待の星を指名した。颯くんはじゃんけんに勝ち、私たちは一人増えた。勝負が拮抗し、クラスメイトの半分が一度は指名されたころ、ミチが指名された。さっきまで大きな声を出していたミチだけど、教室の真ん中で皆に注目されるのはやっぱり恥ずかしいらしく、おじおじと登場した。ミチの対戦相手は再選されたサッカー部の期待の星で、相反する二人の態度に、クラスメイトは視線を注いだ。ミチは勝った。大村とミチのチームからは歓声が沸いた。期待の星がいた私たちのチームは悔しがった。
「もう一回ミチを指名しようぜ」
颯くんが言った。彼がどういうつもりで言ったのかはわからない。ミチをもう一度教室の真ん中に引き出せばもっと盛り上がると思ったのか、次こそミチを負かしてやると思ったのか、自分の友人をミチに奪われて悔しかったのか。クラスの中心である颯くんの考えに異を唱える子はいなくて、私達はもう一度ミチを指名した。ミチはまた勝った。向こう側のチームは再び沸いた。次もミチを指名した。ミチは次も勝った。
ミチは異様にじゃんけんが強かった。私たちのチームから、次々に人が引き抜かれた。5年2組では一度も指名されなかったから、ミチがこんなにじゃんけんに強いだなんて知らなかった。向こう側のチームは、絶対にじゃんけんで勝つミチをすっかりリーダーに据え、ミチの選別で私達から誰が引き抜かれるか決まっているようだった。私達も後に引けなくなり、ミチを指名するしかなかった。ミチが先導する歌声は、どんどん大きくなった。
気が付くと、私たちのチームは4人だけになっていた。颯くんと佐々木さんと、やよいちゃんと、私。4人とも5年2組の生徒だった。
私達は気づき始めていた。
「ミチを指名するしかないよな」
颯くんが言った。首が3つ、縦に振られた。ミチ以外を指名するのは、負けを認め、ミチから逃げ出すのと同義だった。ミチなんかに、負けてたまるか。
ミチは次に誰を指名するのか。
5年2組の花いちもんめを先生に密告した佐々木さんだろうか。
人気者で顔が良い颯くんだろうか。
やよいちゃんか私なら、運動部に所属している私の方を、先に指名してくれるだろうか。
颯くんの手を握る私の右手に、力が入った。
やよいちゃんに握られる左手が、少し痛かった。
――勝ってうれしいはないちもんめ!
沢山の味方と手を繋ぐミチは、すごく嬉しそうに笑っていた。細い目はますます細くなり、お山の形を作っていた。歯を見せて笑うミチを、私は初めて見たような気がした。