小説

『夢三夜 流転』長月竜胆(『夢十夜』)

 私が尋ねると、
「駄目だよ。戻ることはできないの」
 少女は私の横をすり抜けて行ってしまった。
 どこかで会ったろうか。振り返ると、少女はもういない。遠い先に光が見えた。
――駄目だよ。戻ることはできないの。
 少女の言葉が、山彦のように響いた。
 私は前を向き、やはり暗闇の方へと歩き続ける。

第三夜 無色――過去――
 こんな夢を見た。
 墨絵の山水画のような、薄くぼやけた山の風景。白い砂の滝が、雲の割れ目から降り注いでいる。
 一部は霧のように漂い、一部は雪のように舞い、チラチラと光を返し、モノクロの虹をつくる。不思議とざらつく感じはなく、まるで水のように澄んでいた。落ちた砂は川となって、どこかへ流れて行く。
 砂の川に、老婆の姿があった。膝下まで砂に浸かりながら、手探りで石など拾い集めている。
「何をしているんですか?」
 私が尋ねると、
「お墓をつくるのに必要でしょう」
 老婆は当然のように言って、石を拾い続けた。
 やがて、岸に置かれた竹かごが石で一杯になると、老婆はそれを重たそうに抱えた。
「お持ちしましょうか?」
 私が言うと、
「自分で持たなければ意味がないでしょう」
 老婆は当然のように言って、去って行った。
 私は、足下に転がる石に気が付いて、拾い上げる。黒くて歪な石。なるほど、やけに重たい。よく見れば欠けている。
――ああ、片割れを探さなければならないんだな。
 何となく分かって、私は砂の川へ足を踏み入れた。

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