小説

『夢三夜 流転』長月竜胆(『夢十夜』)

第一夜 欲――現在――
 こんな夢を見た。
 私は、切り立った崖の上に立っている。岩と土の混ざった地面と、一本の枯れ木。その向こうで、世界は二つに割れている。
 月のない星空。波のない海原。境界では、歪みのない水平線が地球の輪郭を描いている。
 景色を眺めていると、木の陰から若い女が姿を覗かせた。
 艶やかな長い黒髪。水晶玉のような大きく丸い瞳。それらに幾千の星を映した、まるで女神のような女だった。
「――どうして、約束を破ったの?」
 女は目から流れ星のような滴を零して言った。
 私が答えられずにいると、女は青いバラを足下に置いた。
「さようなら――」
 女はゆっくりと後ずさりをして、崖の向こうへ消える。
 女が飛び降りるのと同時に、海の果てでは日が昇り始めた。いつの間にか、私の手には赤い彼岸花が握られている。それをそっと青いバラに添えた。
 燃えるような朝焼けに佇んでいると、ふと後ろから名を呼ばれた気がした。
――そうだ。帰らなければいけない。
 私は思い出して、その景色に背を向ける。

第二夜 色――未来――
 こんな夢を見た。
 気が遠くなるほど真っすぐと延びた、狭く薄暗いトンネル。果てに待つ朧な暗闇へ向け、私は歩いている。
 照明はない。代わりに小さな窓が点々とあって、わずかな光を取り込んでいた。
 窓は、移ろう絵画のようでもあった。海や山、田園風景から都会の喧騒まで映し出していた。時刻も疎らで、無機質な空間に色を与える。
 眺めながら歩いていると、ふと正面に人影が揺れた。十にも満たないくらいの少女だった。
 私は声をかける。
「君、一人? 迷子かな?」
 すると少女は、
「迷子じゃないよ。行く場所があるから。あなたはどこへ行くの?」
 私は考えたが、
「分からない」
 そう答えるしかなかった。
「じゃあ迷子だね」
 少女は笑いながら言って、飴玉をくれる。
「私も君について行っていいかな」

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