少女は、ヴィレムの手を取りました。
「そうじゃな。この松明を持って帰るか」
しかし、群衆は二人を取り囲み、動こうとはしません。
「お爺ちゃん。これみんなにあげちゃおう」
ソフィアは言いましたが、ヴィレムは諦めきれません。
そこへ、騒ぎを聞きつけた警官がやって来ました。
「ほら、野次馬は解散して。爺さん、早く帰れ」
背の高い警官は、サーベルを高く掲げて、人々を散らしました。ヴィレムは、帰りに松明が盗まれることを心配して、ここで金貨を作ってしまおうと考えました。
「お巡りさん。今から金貨を出すから、家まで儂らを守ってくれんかの? 出てきた金貨の半分やるでよ」
警官は、青い目を輝かせ、その話に乗る事にしました。
ヴィレムは、燃え尽きかけた松明の火を残った松明の束全てに移しました。炎はたちまち業火のように高く大きくなり、中から大量のコインを吐き出しました。
「やった。金貨がざっくざくじゃあ」
ヴィレムは火の熱さも忘れ、大喜びでした。
「うわっ、火事だ。逃げろ」
人々は、蜘蛛の子を散らすように逃げ出しました。警官はソフィアを護って後ずさりしました。火は、金貨の洪水を作りながら、馬車や駅にも燃え広がりました。ヴィレム自身も炎に包まれました。しかし、その顔は満足げでした。
「お爺ちゃん、やだあ!」
ソフィアは泣き叫びながら、警官を振り切って、ヴィレムの近くへ駆け寄りました。ヴィレムは、炎から連れ出そうとしたソフィアを手で制して、にっこり笑いました。
「これだけあれば、お前は学校に行ける。思う存分、学を修めるのじゃ。いいな」
そう言い残して、彼は、周囲の建物もろとも大火に飲み込まれていきました。