そう言って、木こりは自分が切り落とした枝をかき集めました。全部をヴィレムの金貨一枚と交換したのでした。
大晦日の夜でした。ヴィレムは、あれからピーテルを探し回りましたが、見つかりませんでした。
このままでは年も越せない。そう考えたヴィレムは、木こりから買った枝の先に蔓(つる)を巻いて松明を作り、それを一束持って町へ出ることにしました。
町は、夜も更け、駅馬車には一台また一台馬車が停まり、綺麗な女性を連れた男が降り立っていました。その周囲を酔っ払いが歩いて、馬車やヴィレムを嫌な目で見ています。
ヴィレムは馬車の近くの人通りの多い所を選ぶと、松明の束を地面に置き、そこから一本だけを取り出して、大きな声で呼びかけました。
「松明はいらんかえ。明かりにもなるし、暖かいよ」
しかし、通りを行き交う人は、誰一人足を止めようともしません。ヴィレムは苛立ちました。
「松明はいらんかえ。あの伝説のマッチ売りの少女が持っていたのと同じ材質だよ。火を点けると欲しい物が浮かぶだよ」
彼は、大声でがなり立てました。
酔っ払いの一人が、「火を点けて見せろ」とからかいましたが、「うるさい! 買わないなら来るな」と、追い払いました。
夜が更けるにつれ、風がびゅうびゅうと吹いてきました。凍えるような寒さです。コートを着ていたヴィレムですが、さすがに震えて歯がカチカチと鳴りだしました。
「木こりめ、儂を騙しおったな。仕方がない。一本火を点けて暖まったら帰るか」
そう決心すると、手に持っていた松明にマッチで火を点けました。
すると、どうでしょう。煌々とした明かりがともり、周囲を暖かく包みました。しかも、ぼわっと火が大きくなったかと思うと、炎の中から一枚の金貨が落ちてくるではありませんか。
「おお、金が出てきたぞ」
道行く人は足を止め、騒ぎ出しました。
「熱い! この金貨、本当に炎から出てきたんだ」
ヴィレムをからかっていた酔っ払いが、落ちた金貨に手を伸ばし、叫びました。
「儂のじゃ! 触るな!」
ヴィレムは、火の点いた松明を振り回して酔っ払いをどかせました。熱い炎で、酔っ払いはそこに居られなくなりました。
「爺さん、売ってくれ!」
「幾らだ? 金貨二枚出すぞ」
周りには人だかりができ、まだ地面にあった松明を持っていこうとする者も出る始末でした。
「今日はもう店じまいじゃ」
ヴィレムは、この松明さえあれば、金貨を大量に得られることに気づき、人々を追い払おうとしました。ヴィレムと観衆の間には険悪な空気が流れました。彼らは殺気立って、
「いいから売れよ!」
と、詰め寄りました。
ヴィレムをこっそり後からつけてきたソフィアが、群衆の中を分けるようにして彼の傍までやって来ました。
「お爺ちゃん! もう帰りましょう」