小説

『everything i wanted』平大典(『ドリアン・グレイの肖像』オスカー・ワイルド)

 性格はいつものタカシ。おっとりとした口調。
「そういうのよりもさ、彼女とかいないの? ラインやってる人とか」
「いねえなあ、モテねえし、オレ」
「へえ」
「逆にさ。お前は? 果穂」
「……いないよ。男子で話せるのタカシくらいだしさ」
「だよなァ」
 私は、その端正な横顔を見てうっとりしていた。

  
 ***

 
 喜びは短いものだった。
 タカシに彼女ができたという噂は、次の週に聞いた。
 バスケ部の一年生。
 結果は、明白だ。
 外見を操作できても、彼自身をどうにかするのは不可能だ。
 当たり前だ。
 タカシの変化に気づいたのは、私だけではない。
 当たり前だ。
 内面は変わっていないのに。
 私は何もしなかった。
 勇気がなくて。
 外見を変えてうっとりしていただけだ。
 自分の愚かさに悲しくなる。

  
 ***

  
 だけど、許せないことがある。
 胸が潰されそうだった。
 タカシは、私のおかげで。
 完成した肖像画を見る約束は忘れてしまったのか。
 昼休み、私は自然と肖像画の前に来ていた。
 無人の美術室は、いつかと同じく静寂に包まれている。少し汚れているアポロやブルータスの胸像は、美術室のロッカーの上に並べられており、沈黙してどこかを見たままだった。
 ここへ来る前に、タカシが中庭でカノジョとご飯を食べているのを見かけた。
 幸せそうだった。
 深く呼吸をする。
 無表情の美しいタカシの顔。理想の顔。
 私が作り出した。
 私が作り出したのだ!
 ペンナイフを握る。
 胸の底から湧き出る激情に身を任せ、画用紙を切り裂く。
 何本も線を入れる。

 
 ***

  
 やがて、中庭の方向から、女の悲鳴が聞こえてきた。
 次は自分でも書いてみようかな。

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