しかしいつまでもこんな生活をしていて続くわけがない。今日もシールをぺたぺた、二人で貼っていると、玄関のインターフォンが鳴った。動きを止めた二人が、目配せして、オサムがまた首をくいとやるが、眉間にしわを寄せたマダムに、行けよ、と口の動きだけで言われ、観念してよろよろと立ち上がってドアまで歩いていく。
「はいはい」
「あ、オサム君?」
「あれ、その声は大家さん」
「うんそう。今日は月初でしょ、家賃の追い立て」
「追い立てって大家さん、家賃は月末支払いでしょ」
「こらこら、それが払われてないから来てるんでしょうよ」
「あれれ、そうだったっけ?」
「あれれーじゃないよーオサム君、勘弁してよお」
「いやーほんと、勘弁しないとねえ」
あは、あは、と笑ってごまかすオサムに、大家もさすがに苦笑いだった。にこやかに話しているが、まあ大家も言ってる通り、これは家賃の取り立てなのである。すでに家賃をもう三か月以上も滞納しているオサム一家は、いつ強制退去させられていてもおかしくないのだが、野球ファンの大家さんは、オサムを甲子園で見て熱狂していたらしく、それもあって、情けで目を瞑ってもらっていた。とはいえ何カ月も家賃を滞納してそれを払う気もないのであれば、大家として取り立てないわけにはいかない。
「面倒見てあげたい気持ちは山々なんだけどさ……」
「そらそうですよね……」
と、今回ばかりは不味いと思っているのか、オサムも少し反省の色を見せる。
「僕好きだったんだよねえ……」
「え、なにが?」
「オサム君のプレー」
「ああ、野球のこと。そんなこともありましたな」
「もっかいやってみたらいいんじゃない?」
「ぼくが? 野球?」
「そう、トライアウトとかあるし」
「あー、それね。一応知ってる」
「もっかい挑戦するって話なら、ぼく面倒見るよ」
「え。なんの面倒?」
「家賃だよ、家賃」
「うそ。まじで」
「うん。ぼくちょっと見たいもん、オサム君のプレー」
「そりゃあ嬉しいけど、野球かあ……」
家賃を支払わなくてもいいというのは、オサムにとってこの上ない提案だったが、気乗りしない様子。それを察してか、
「ま、とにかく家賃払ってくれればそれでいいのよ、お願いだよ」
と言って、大家はアパートの三階の自宅に戻っていった。