「そうでしょうか?」
「仲が良かったんだなって伝わってくるよ」
「はい。私共は親友同士でした。早くまた一緒に旅をしたいです。その為にも勇者様、すぐに転生をして下さい」
「断る!」
結局、今日もそんな会話をしているうちに自宅の前に着いた。
「それでは勇者様、また明日お迎えに上がります」
「お前さ、いつもどこで寝てんだよ」
「公園で野宿をしております。あ、気を遣わないで下さいね。私は野宿が好きなのです。仲間と焚き火を囲んだ日々を思い出せるので……そうだ勇者様、少しお時間を頂戴してもよろしいですか」
曖昧に頷くと、イヌーは俺に向かって手をかざし、呪文を唱え始めた。
すると、次第に力がみなぎってきた。
「なんだこれ? 嘘みたいに疲れが取れたぞ!」
「私の得技です。いつも焚き火を囲みながら仲間に治癒魔法を施していました」
「治癒? それってさ、ひょっとして病気も治せるか?」
「当たり前でございます。私は大魔導士ですので!」
次の日の夜、待ち合わせ場所に着くと同時にイヌーが飛んできた。
「勇者様、お疲れ様でご転生ぃぃぃ!」
「もう言うのが面倒臭くなってんだろ!」
相変わらず突っ込みを入れても反応はない。彼は目の前に降り立つと、すぐさま本題を切り出してきた。
「さて勇者様、お願いというのは何でございますか?」
「それだよ……」
俺は近くに建つ明かりの消えた病院を指さした。
数年前から世界中で奇病が流行していた。突発性昏睡症候群と呼ばれるその病気は、罹患したら最後、眠ったまま目覚めなくなってしまう。原因も治療法も不明。いまのところ患者達を専用の病院に集め、チューブを挿して延命処置を施すしか術はない。バイトの際にいつも訪れるこの施設に、実は、俺の友人達が入院していた。かれこれ何年も意識のないまま。
「俺さ、俺、どうしようも出来ないって諦めてたんだ。だから見て見ぬ振りをしてた。でもさ、救う方法があるなら、やっぱり救いたいよな」
詳細を伝えて治癒魔法をお願いすると、イヌーはいつになく真剣な顔をし、病院を見上げた。そして、諭すように俺に告げた。
「これは、私には無理です」
「は? お前、病気を治せるって言っただろ!」
「邪気を感じます。これは病気というより、呪いです」
「へぇー、呪いは無理ですか。さすがは大魔導士様ですね」
「申し訳ございません。ですが勇者様、あなたならば呪いを払えます」
「え?」