小説

『ホタルが見送る銀河鉄道』洗い熊Q(『銀河鉄道の夜』)

 星雲? 星の雲だよ。いま浮かんでいる雲のように、銀河鉄道が走る空にはきらきら光る雲が、いっぱい流れているんだよ。
 きらきらの雲の合間を走り抜けて。
 このススキの海を波乗りしていった。
 駅はないのかね、ここに。“黄金ススキの海”の駅て作っていいと思うのにね。
 あれは大きな汽笛を立てて私の上を通り過ぎちゃった。
 停まってくれたら乗れたのに。
 切符はなかったけど。
 子供だからタダで乗っても構わないもんね」

 
 冬間近の連休中。母の実家に行った時だった。彼女が夜にいなくなったのは。
 風変わりで稀に学校から逃げ出す事がある子でも、真夜中にいなくなっては騒ぎになって当然。どの切っ掛けで気付いたのかは分からないが。
 家族が騒ぎ出して、近所の人まで起こされて、駐在所のお巡りさんも来た。
 寝ていた僕も起こされて、眠い目を擦りながら女の子がいつ出て行ったのかを聞かれた覚えがある。
 その夜は新月で真っ暗な山村、その空に煌めく川の様な星空が綺麗だった。
 皆が懐中電灯を片手に山へ探しに行く算段をしている最中だ。
 女の子が小走りで暗闇から現れたのは。
 最初は皆が驚いて良かった、良かったと歓喜を上げたが、彼女が矢継ぎ早に薄の野原で見たあの光景を興奮して語りだして一変。
 最初は全員、ぽかんと唖然。
 その後は家族が中心になり烈火の如く叱るのだ。
 怒られ泣きながらも彼女は自分が見たものを必死に説明するのだが、そのまま鼻水を垂らしながら最後はただ謝るだけだった。

 よく覚えている。日付すら言えるほど鮮明な思い出。

 そして連休の最後の日。僕が帰る前に連れられ訪れた薄の野原。
 彼女が語った言霊は、今の思い出以上に刻みこまれて、耳から聞いていると錯覚する程。一語一句、声の調子まで思い出させる鮮烈な記憶だ。

 
 もうあの日から二十五年は過ぎている。

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