ほんとやんなっちゃう。お月様が休みの日だって知らなかったから。
でもね、そのおかげでもっとびっくり。
いちばん私が見たかったもんが来たんだから。
沢山の星空の彼方からやって来たんだ。
あの銀河鉄道は。きっと私を迎えにと」
僕の母方の実家は関東甲信外れの山中。長閑と言えば聞こえが良いが本当に何もない土地だ。
母が生まれ育った所は大きな集落があるものの、花が咲き乱れるや雄大な景色などもない。
ただ寒さが吹き込み季節が秋へと変わるにつれ、山並みが色づき葉々が狐色へと枯れてゆく見事な紅葉だけはある。その中でなだらかな斜面一面に薄が群生する所が。
紅葉の季節にそこは正に黄金の海が現れるのだ。
見渡す限りに続く穏やかに揺れる薄たち。風が薄の上を波乗りしながら進む。
「あれは北風がススキたちを撫でて上げてるんだよ。今年もがんばったって」
彼女は薄の波を見ながらそう表現していた。
母の兄の子だ。神秘的な容姿が印象的な子。ただ言動や行動が突飛で、近所ではやや風変わりな子として遠巻きにされていた。
でも魅力があったのも事実。
ふと彼女が語りだす、夢の一部の様な童話の世界。それに魅了され、その空気の冷ややかさえも感じる言霊の力に包まれるのが快感だった。
当時七歳の自分には十分な娯楽だ。
「銀河鉄道はね。
地面を走ってるんじゃないよ。
そう思っていた。きっと私達に見えない線路があるんだって。
それはね、空にあるんだ。
あれを見て間違いないって思ったね。
そう、あれは空からやって来た。
幾万って輝く星雲の間を抜けて、ここに下りて来たんだ。
幾万って? たくさん、たくさんってことだよ。