小説

『ホタルが見送る銀河鉄道』洗い熊Q(『銀河鉄道の夜』)

 あの子はさも今し方に、いや今まさに目の前で起こっている様に、それを興奮しながら語るんだ。
 あの子とは僕が七歳の時に、同い年だった従兄弟の女の子だ。

「あれはね。
 火も出しながらモクモクと白い煙を吐いていたんだよ。
 眩しいくらいのカンテラの白い光が私を照らして。そしてあのススキの原っぱの上を、線路に見立てて凄い速度で横切ってね。
 ごうぉん、ごうぉん。車輪が叫んで凄い音で走っていたんだ。
 あれは銀河鉄道だ。
 すぐに分かったよ、私は。
 銀河鉄道の機関車だよ。
 今みたいに明るかったら、この黄金の野っ原を突っ走る真っ黒な機関車が見れたろうにね。
 夜で真っ暗だったからそれは見えなかったけど。
 でも絶対そうだよ。
 あれはね、銀河鉄道だったんだ」

 七歳の女の子の語り口としては不似合いだが、言葉の理解が出来ずとも当時の僕は不自然とは思わなかった。
 あの子はそうだった。口調がませてると揶揄するのを越えていた。恐らくそれは彼女の祖母の影響だったんだろう。
 文学が趣味で、宮沢賢治が大好きだったあの子の祖母。文字が真面に読めなくても読み聞かせてくれた。そう彼女も言っていた。
 だから銀河鉄道や、黄金の野原という表現も、あの子にとっては普通の言葉なのだろうと。
 ただ今でも僕が不思議に思うのは熱く語る姿だった。
 目前で流れる映画を彼女は雄弁に語っている様だったから。

「私だってね、わかっていたよ。
 夜中にひとりで外、出ちゃいけないって。
 でも見たかったんだ。あの昼間は黄金の波立つススキの野っ原が。
 満月の下では静かに流れる蒼い海になるんだって。
 見たいじゃない、やっぱり。
 で、行ってみてびっくり。満月でてなかったんだよ。

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