それを聞いて納得した。関係のない僕でも、奥さんと共に斜面に向かって追悼する事が自然と出来た。
拝みながらどの様な事故かと想像したのが切っ掛けだ。帰ったら調べてみようと。
でもこの出逢いが薄の思い出の不可解な想いを解くと同時に、新たな謎に気付かされるとは夢にも思わなかった。
事故に関しての情報は苦労なく知り得た。ネット、新聞。大きな報道ではないが、それが未解決であるが為だ。
驚いたのはそれが二十五年前だという事だった。
操縦者を含め搭乗は三人。取材の為の小型飛行機の夜間飛行。
管制官への定時連絡を最後に、そのセスナの機影がレーダーから消えた。
緊急連絡もなく突然の消失。無論、墜落を想定しての捜索が直ぐに行われたが。
発見されたのは翌朝を挟んだ二日後。機影が消えた地点から大分離れた斜面だった。
夜間で目撃者もほぼいない。機体も深い森に隠れように墜落。発見が早ければもしかしたら搭乗者も生きていたかもと。
「主人はきっと必死に立て直そうとしたと思います。諦めない人でしたから。飛べない飛行機を、あそこまで飛ばしたんです」
山の麓の茶屋で一緒にお茶を飲みながら奥さんは語っていた。
新聞にも大まかな飛行経路が掲載されていた。レーダーから消えた地点からセスナは低空で飛行を続けたらしい。何処か不時着する為か。
その経路上に間違いなく、あの薄の草原がある。
墜落した日付。あの女の子が夜に居なくなった日に間違いなかった。
それを知って色んな思いが巡る。
もしかすると、いや間違いないかも知れない。あの子が見たのは必死に飛ぶ小型機だったかと。
あの夜、彼女の話を単なる妄想と片づけずに聞いていれば、墜落した小型機の発見も早まったのではないかと。
正か小型機はあの薄の草原に不時着しようとしたが、あの子がいるのを見つけて降りるのを断念したのかも知れない。
だがそんな思い巡り、今更に意味がない。
そして確かめようもない。
何故なら女の子は、あの夜から三ヶ月後に亡くなってしまったのだから。
「いつもあの場所から見える薄の草原。離れて見ても綺麗ですよね。近くで見たらもっと美しいでしょう」