野生のヒトは野蛮だ。仲間同士でも争う。彼らの怒声や叫び声が山にこだまして里にまで届くことがある。その音は醜悪で、耳にしただけで寝込む者もあるほどだ。
それでも生活圏が分かれているうちはまだよかった。彼らはやがて山を焼き、獣を屠り、それでも飽きたらずに里を襲うようになった。
里に彼らの食料となるようなものはない。姿は似ていても糧とするものは異なる。私たちは水と日の光さえあれば命をつなぐことができるからだ。
しかも彼らが襲うのは里のヒトを獣のように屠り食すためではない。ただ傷つけ、命を奪う。そのことにどんな意味があるのか私たちに理解はできない。なにしろ相手は野生のヒトなのだ。理解の範疇を超えている。
私たちにできるのは防御だけだった。
それすら、できる者は限られている。私キジと、サル、イヌ、そしてモモ。
私は今日も、いつものように樹上から敵の動向を見定め、実行役のモモに伝える。
「モモ、今日は群れで来るわ！」
地上でモモが小銃を構えた。
「おい、今日はさすがにまずいんじゃないか？」
いつしか同じ枝にサルが腰掛けていた。私は無言で頷いた。
群れは統率がとれていた。長らしき者を先頭に、足並みをそろえて向かってくる。気ままに走り回るいつもの動きとは明らかに異なっていた。この辺りの野生のヒトではないかもしれない。
「ほんとうにまずいぞ、これは……イヌ、里のやつらを逃がせ！」
サルがモモの背後に控えるイヌに向かって声をかけた。
「わかった！ しかし、俺だけでは間に合わん！ おまえも来い！」
「いや、でも」
サルは躊躇いの表情で私を見た。
群れはすぐそばまで来ていた。里じゅうに知らせるにはイヌだけでは足りない。
「こっちは平気よ。行って」
「平気なわけないだろ。キジもモモも逃げるんだ。今度ばかりはモモでもかなわない」
「モモには私が伝えるわ。だから、先に行って」
「……わかった。すぐに来いよ」
言うが早いか、サルはスルスルと木を滑り降りて、既に走り出しているイヌの後を追っていった。
群れはモモの視界に入るほど近づいている。モモが小銃を構えなおした。
「モモッ！ 撤退よ！」
「そういうわけにはいかない！」
