小説

『コール&レスポンス』もりまりこ(『眠れる森の美女』)

 このままコモリに突入かとくさくさしていたら、ある夜日奈がごそごそと身体を動かし始めた。猫が伸びるように両腕をあげて口元が動いた。「田沼さん、お友達はできたの?」何年ぶりに聞く日奈の声だろうと思った。あまりにうれしくて、思わず日奈の寝言に返事してしまった。
「できたよ。たくさんできた。毎日違う人が訪ねてきてくれるんだよ。日奈のお陰だよ。でさ、彼らも俺たちと一緒でコモリでインソムニアだったんだって。ともだちの数、かつてない数字だよこれって」
 ほんと魔が差した。今となってはそうとしかいえない。田沼が返事をした後、
 日奈は、すっきりと目覚めていた。
「ともだちできてよかったね」
 日奈の声がどこか遠くでする。田沼は、その刹那おそろしいぐらいの速さで、どこからか堕ちてゆくような感覚に襲われ、沼にはまったように睡魔が襲ってきた。日奈と逢えたのも束の間だった。眠りにつくと、世界中のコモリでインソムニアの誰かのため、沼田は眠り続ける覚悟を身に刻みながら眠りのスロープを下っていた。部屋では、日奈と田沼の友人になったばかりの東雲さん只見さん、花田さんアウル・シロタが心配そうに見守っていた。眠りのプロフェッショナルの道を田沼は、いままさに歩んでいるところだった。

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