小説

『君という銀貨』小山ラム子(『星の銀貨』)

「お母さんの言葉もう一度思い出してみて。『困っている人を助けてあげられる人』でしょ? もうとっくになってるよ。星野はわたしを助けてくれた」
『で、でも筆箱くらいでそんな……』
「それだけじゃないよ」
 それだけじゃない。こんなにもわたしの言葉を真剣に受け止めてくれる人。その存在こそがわたしを助けてくれた。すっかり冷え切ったわたしの心にあたたかな風が吹いたんだ。
 ふと窓の外を見る。夜空いっぱいの星が輝いていた。
「星野。空見てみな」
『そ、空?』
「うん。きっと星野のお母さんはあそこから見守ってるよ。でも心配もしてると思う」
『してるかな』
「してるよ」
『させたくない』
「これからは大丈夫だよ」
 困っている人を助ける。わたしもそれは人として当たり前のことだと思う。だからわたしも助けるんだ。星野のことを。
『鈴岡さん。わたし思い出した』
「なに?」
『お母さんね、その後にこう言ってたの。困っている人を助けてあげられる人になりなさいって言ったその後に』
 星野の声は震えていた
『そしたらあなたが困ったときに誰かが助けてくれるからって』
 うん、そうだよ。困った人を助ける愛。それはきっと回り回って自分に戻ってくる。利用され、無下にされた愛でなければ。本当に感謝された愛であるならば。
 もう一度星空を見上げる。今にも零れ落ちそうな銀色の輝き。それを手にしている気分になった。

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