久しぶりに公園へ行った山寺が見たのは、
<野良猫への餌やり禁止>
の立て札。立て札に添えられた文章には
<猫餌の残りに烏が集まり、公園で遊んでいた児童がつつかれる被害が出ました。また残飯が放置されると不衛生でもあり・・・>
「猫が居ない。猫が」
この公園でも、あの公園でも。
(そうだ、里親譲渡会で貰えば)
しかし調べると、譲渡会で貰い受けるには住所氏名の記入と身分証明書の提示が必要だった。何度も繰り返すと怪しまれる。
(車で遠征して、離れた所で捕まえるか)
いい大人が野良猫を追い掛け回すのを怪しまれずに済むか?車のナンバーを控えられたら?どうすればいい。いっそ知らなければ良かった。知ってしまったあの快感を諦めろというのか。町を放浪し、今日も夜の公園で蹲る。また、刺すような気配を感じる。
「誰だ、誰が見てやがる」
ぎらぎらした目を闇に凝らす。誰も居ない。だが、見られている。こちらからは見えないのに、絶対に何かが俺を見ている。
金色の丸いものが、闇に光った。
丸いものが二つ宙に浮いている。近づいてくる。大きくなる。目。目だ。
金色の丸い目が俺を。
(あぁ・・・聞こえる・・・)
なんだ、聞こえるじゃないか。あの妙なる響き。ここにあるじゃないか、柔らかな感触。
んぎゃ。んぎゃ。んぎゃ。
あぁ可愛いな。もっと啼け。
んぎゃ。んぎゃ。んぎゃ。
ふふふふふん、ふふふんふん、そうだ、何か歌があったよなぁ。
やがて恍惚から醒めた山寺が見たものは。
自分が蹴り殺した臨月の妻と、臍の緒と、繋がったまま息絶えた我が子の姿。
「おい、何か聞こえないか」
「ああ。お前初めてか。中のあいつが歌ってんだよ」
近所の住人の通報で山寺は捕まった。
「あいつ何やってんだ」
留置所の中の山寺を覗き込んだ看守が同僚に尋ねる。
「さぁな。俺に聞くなよ」
ぶちり、ぶちりと山寺は自分の髪の毛を引きちぎる。束で掴むので頭皮から血が滲む。殆ど丸坊主になってしまった。
「あれで精神鑑定受けて罪から逃れようってのかね。ふざけんなよ。あんな惨い事しておいてよ」
看守は二人とも見ない振りをした。
「そういやあいつ、変な事言ってたらしいなぁ。ワイドショーで見たんだけどさ。俺は化け猫に操られてたって」
「何だそれ。ホントにおかしいのかな」