「やるな。麦野。」
そういって、藤藁は僕の肩をたたいた。
帰り道、家の近くの公園によった。寄り道をする友達もなく、部活もしていない僕は家にそのまま帰るのはなんだか恥ずかしく、いつも公園で時間をつぶしていた。いつものように本を読んでいると、子供の泣き声がした。
「わーん。ぼくのお菓子持っていかれた!」
鴉が電柱からどや顔でこちらを見て、飛び去って行った。
「しょうがないでしょ。もうおうち帰りましょう。」
母親が慰めても少年は泣き続けた。おのれ鴉。
そう思うと、身体が少年のもとへと動き出した。
「あ、あの、僕、クッキー好き?これ、兄ちゃんのあげるよ。」
少年は泣き止み、ぱぁっと笑顔になった。
「ありがとう!お兄ちゃん!」
「いいんですか?こんなに立派なクッキー。」
「いいんですよ。喜んでくれるなら。」
少年の母親はバックからペットボトルのお茶を取り出した。
「つまらないものですが。まだ空けてないので、良かったらどうぞ。」
「いいんですか。ありがとうございます。」
藤藁に体育館裏であったあの日、藤藁が僕の家族以外の連絡帳第一号となった。その夜、藤藁からメールが送られてきた。
「友達になろう!」
それだけ。今まで無視していたが、藤藁に言われたことを守ってから少し自分が優しくなれた気する。今までの感想としては、まぁ悪くない。このまま続けていこうと思う。
「いいだろう。」
そう藤藁に返信した。
日曜日、どういうわけか、藤藁が家に来るように誘ってきた。電車で片道50分。町のはずれに彼の家はあった。田んぼが広がっており、でかでかとした目立つお屋敷が聳え立っていた。そこが彼の家だった。これが先祖のわらしべ長者が手に入れた家か。
「どうだい。麦野。調子は。」
「今までは見て見ぬふりしてたことが今では勝手に体が動き出してしまうようになった。気持ち次第でこんなに変われるんだなって。驚いたよ。」
「うまくいているようだな。」
「ほんとだよ。ハーフパンツがクッキーになってクッキーがお茶になったんだ。こんなに順調にいくなんて、やっぱお前観音様なんじゃないの?」
しばらくして、僕たちは藤藁の家の近くの駄菓子屋さんに行った。僕が住んでいる町とは違い、のどかでいい街だ。藤藁がアイスキャンディーをおごってくれた。
「麦野に心掛けてほしいことが一つある。わらしべがうまくいっているからと言って、調子に乗ってはいけない。今まで通り親切に、謙虚であってほしいんだ。」
「わかってるよ。」
「実は僕の親父、わらしべの家に婿に入ってからわらしべ魂を受け継いだんだが、欲が出て交換したものにケチをつけたんだ。その結果どうなったと思う?」