「もうそろそろ一週間経ちますし大丈夫ですよ、移りません。プリント一週間分たまってるんでお邪魔しますね」
「あ、ちょっと!」
由紀奈の母を擦り抜け、問答無用で家に入る。勝手知ったる風に二階まで行くと、由紀奈の部屋が自ら静かに開いた。
「……いいの?」
「……うん」
部屋に入る前からわかった。由紀奈の部屋は、以前の、片付いて、良い匂いがする女の子の部屋ではなくなっている。そこら辺に栄養ドリンクの空き瓶とお菓子の袋が散乱する、まるで、香奈子の部屋と同じだ。
「由紀奈……」
「香奈子、私、やったよ……」
由紀奈はそう言いたいのだろうが、声は掠れていてうまく聞き取れない。由紀奈はふらふらと焦点の合っていない様子で香奈子にスマホの画面を見せてくる。画面には、499位の文字が光っている。
「ゆ、由紀奈……あんた……」
「ごめんね、私香奈子に返事送らなくなったあの間、寝ちゃってたの。そんで、起きたら四桁まで順位落ちてて……とても顔向けできないって思って、それで、お母さんに栄養ドリンクとか買ってきてもらって必死に走って……」
「由紀奈、由紀奈……」
香奈子はたまらず由紀奈を抱きしめようとするが、由紀奈は手を挙げ、それを制止する。
「待って香奈子。一発私をしばいて欲しい。私ね、途中で挫けそうになったの。もうやめてやろうこんなのしんどいし、勉強もしなきゃだし。もう香奈子の推しとかどうでもいいやって。だから一発しばいてくんなきゃハグは出来ない」
「それを言うなら由紀奈、私のことも一発しばいて。私だって、由紀奈のこと疑ったの。もう嫌になっちゃったんじゃないかって。賢也くんにいちゃもんつけて怒鳴ったり、本当に最低なの。ね、お願い私のこともしばいて。じゃないとハグ、出来ない」
「香奈子……!」
「由紀奈……!」
香奈子と由紀奈は互いの頬を一発ずつバチーンと叩き、顔をぐしゃぐしゃにして涙を潤ませながら、きつく抱きしめ合う。
「でもね、コウキくんのカード発表された日の香奈子のあの顔思い出して、立ち止まったの……! 香奈子、すっごい嬉しそうにしてたから……!」
「私も、いっつも由紀奈が支えてくれたこと思い出して、信じられたの……! 由紀奈、いつもいつも、私なんかのためにありがとぉ~!!」
二人は抱きしめ合いながらおいおいと泣き崩れ、互いの服に涙のしみを作っていく。小さな子供の時以来にこんな風に泣きながら、香奈子は思った。きっと、由紀奈が全裸でも、私はこうやって由紀奈を抱きしめていただろう、と。