小説

『太郎会議』まいずみスミノフ(『桃太郎』)

「議長の話、モモタロさんがご推薦してくださったようで。えろう感謝しとります」
「ふん、面倒ごとを押し付けただけだ。むしろよく引き受けたな」
 そういうと鬼は桃太郎に一枚の紙を渡した。
「…T-1グランプリ?」
 ゴテゴテとした装飾のチラシにはそう書かれていた。
「太郎-1グランプリです。各果物連中が連れてきた『◯◯太郎』を競い合わせて、一番格好良く鬼を切れたものに、新しい物語の主人公になる権利と副賞として金一封が贈られます。ま、要するにまた一儲けさせてもらいますわ」
「抜け目のない奴だ…」
 だから面倒な議長の仕事を受けたのか。
 桃太郎は呆れてものもいえなかった。
「…鬼よ、一応尋ねておきたいことがある」
「なんです?」
「倒されるとしたら貴様は何太郎に倒されたい」
 大鬼は一瞬きょとんとした後ガハハと豪快に笑う。
「妙なことを尋ねますね。ですが何太郎でも気持ち良く「倒されさせて」もらいますわ」
 鬼は少し寂しそうな表情を浮かべた。
「太郎会議は桃太郎が人気者であるがゆえに起こった問題です。…一方鬼はやられ役。やられ役をやりたがるやつはそうはおまへん。子どもたちの学芸会だって鬼はじゃいけんに負けた子がやるんです」
「…ああ」
「モモタロさんは変なところで責任感が強い。もう果物たちの問題など放っておいたらよろしい。さあ着きましたよ」
 高級車が停まり後部座席が開いた。
 鬼のプール付きの豪邸に到着する。
 プールサイドは飲めや歌えの大騒ぎだった。水着姿の女鬼で溢れかえり、大音声で音楽が流れている。
「…あれは猿のせがれか?」
 桃太郎は目をこらす。DJブースには見覚えのある猿の姿があった。ひょうきんぶりに磨きがかかり、近年ますます父親に似てきている。
 よくよく見ればそれだけではない。
 酔ったキジの曲技飛行と犬の特技のバタフライでプールサイドは大盛り上がりである。
「あいつらも呼んだのか?」
「…はい」
「鬼よ。何を企んでいる。言え」
「やっぱモモタロさんには敵わへんなあ! 実はT-1グランプリの審査員を是非やってもらえへんかと思っていまして…。お供の皆さんは快く引き受けてくれたんですけど」

1 2 3 4 5 6 7