小説

『太郎会議』まいずみスミノフ(『桃太郎』)

 ぽろぽろと涙を落とす。
「わしのお供は生涯お前たちだけだ! 犬と猿とキジは永遠である! そして我々の好物はきびだんごだ!」
「桃太郎さん!」
 一人と一匹が熱い抱擁を交わす。
 犬の遠吠えと桃太郎の嗚咽がいつまでもいつまでも場内に響き渡っていた。
「…なんだこれ」
 盛り上がる彼らに対して植物は冷ややかだった。

 
 後日、桃太郎は『太郎会議』の議長を解任された。
「願ったり適ったりだ」と強がってはみたものの、ちょっとだけショックだった。
 後任を任されたのは「鬼」だった。
 その鬼が鬼ヶ島に招待してくれるというので、桃太郎は今鬼ヶ島行きの飛行機に乗っていた。
「……」
 眼下に見下ろす鬼ヶ島が、荒波押し寄せる絶海の孤島だったのは、今は昔のことである。波は波でも鬼ヶ島に押し寄せたのは近代化の波だった。
 ゴツゴツとした岩肌はコンクリートに覆われ、高層ビルが立ち並び、透明なチューブの中をホバリングした電気自動車が走る。断崖絶壁だった海岸はすっかり整備され、親子連れやカップルが憩いの時を過ごしていた。
 空港に降り立った桃太郎はここ数年でまた景色が変わったなと思った。
「モモタロさん! こっちです! えろうお久しゅうございます!」
 桃太郎の二、三倍はあろうかという大鬼がぶんぶんと手を振っている。かつては鉾を交えた二人だが、今では竹馬の友となっていた。
「鬼よ…いったいどういう風の吹き回しだ。こんなところまでワシを呼び出して」
 桃太郎は長旅の疲れからイライラしながらいった。
「まあまあ立ち話もなんですから、どうぞ」
 成金特有の無駄に長い高級車に乗せられる。
 車内は鬼のサイズに合わせてあるせいか異常に広かった。桃太郎は巨大な座席に座り子どものように足をぶらぶらとさせながらいった。
「相変わらず羽ぶりが良さそうだな」
「おかげさまで。儲けさせてもろうとりますわ」
 しゅぽんと鬼はシャンパンの栓を抜く。
 初代桃太郎が鬼退治を行ってすぐのことである。大鬼は『鬼の派遣会社』を立ち上げた。鬼の派遣会社とは読んで字のごとく、やられ役である鬼を各昔話に派遣する会社である。これが思いの外ヒットした。そもそも鬼は昔から事故や怪我が絶えず、あまりやりたがるものがいなかった。それを逆手に取り鬼のプロフェッショナルを育てあげ、供給を安定させた。おかげでヒーローたちも全力で正義が執行できるようになった。

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