お供の一匹である犬が背筋をピンと伸ばしてお座りしていた。
犬はよく通る声で植物連中にいう。
「どうぞわたしの話をきいてください! 我々動物界でも度々「桃太郎のお供問題」がとりざたされています! とりわけ槍玉に挙げられているのはキジです! ただでさえ鬼退治の戦力として疑問視されていたところに昨今の知名度不足です…」
「今の子どもたちはキジなど知らんぞ!」
「孔雀と区別がつかない!」
「猛禽類に置き換えられたらどうか!」
心ない野次に犬の尻尾がだらんと垂れた。
「次期お供候補である猿のせがれなど、名誉ある役職には興味がないようで、Youtuberになって封建的な昔話界に鋭いメスを入れるとか言って皆を困らせています」
「あのバカ息子は猿山にでも放り込んでおけ!」
「一方で犬の地位は安泰かあ?」
「この桃太郎の犬め!」
「わたしたちだって大変なんです! 桃太郎のお供に立候補する連中は大半が軟弱な飼い犬です。このままではいつか本当に鬼に負けてしまいますよ!」
「昔話なんだから、さすがにそれはないだろう」と桃太郎は思った。
「極め付けは「野生動物にエサをやるな」「子どもが真似する」といった世の論調でしょう? それを言ったらおしまいですよ…」
桃太郎も正直「本当はあげてはダメなんだろうなー」と思いながら彼らを餌付けしていたが、それを言ったら犬の主張がブレるような気がしたので言葉を飲み込んだ。
「しかし極論、犬猿キジが狼とゴリラと鷲になっても物語に影響はありません! でも桃だけはダメなんです! 変えられないんです!」
「なぜだ!?」「ふざけるな!」と罵声を一身に受けながら、犬は全く怯まない。
「桃太郎が桃太郎である所以だからです! 桃太郎さんは体臭が甘いわけでも桃尻なわけでもない! 桃から生まれることが最大にして唯一のアデンティティなんです! 我々は時代に合わせてリコールされてもいい! きびだんごがペットフードになっても構わない! だけど桃は! 桃だけは奪わないでください! 桃太郎を終わりにしないでください!」
犬の決死の主張に場内が水を打ったように静まり返った。
「大体あなたが「桃から生まれるから桃太郎なのだ」といえば済んだ話ではないですか! 桃!」
桃は犬の方を見てニヤリと笑うだけで、相変わらず何を考えているのかよくわからない奴だった。
「そういうわけですから議題自体が間違っているんです! それでも桃が気に入らないというのであれば新しく物語を作る他ない!」
異を唱えるものは誰もいなかった。
そして犬の言葉に、誰よりも心を打たれたのは議長である初代桃太郎その人だった。
「…そんなことはないぞ!」