「俺、わかるんだよ、そういうの。っていうか、黒木もそうでしょ?」
ファインダーから目を離し、直接こちらの目を覗き込んで秋月は言う。
「嘘アレルギーなんだ、俺も」
金属バットがボールを捉える音が、やけに耳に響いた。
咄嗟に言葉が出なかった。
嘘でしょ、と思わず口にしかけて気が付く。
鼻がムズつかない――秋月は本当のことを言っている。
「どうして、気づいたの?」
ようやく口から出たのは、そんな問いだった。
「いや、百パー確信を得たのは、今この瞬間だけどね」
苦笑しながら、秋月が言う。
「でも、『あれ?』って思ったのはつい昨日だよ」
そんなに直近?慌てて記憶を遡るが、ボロをだした覚えはない。
「ほら、井上先生が黒木に質問しただろ?『嘘アレルギーの正式名称知ってるか?』ってやつ。あれに、お前『知らない』って答えたじゃん。何でわざわざそんな嘘つくのかなー、って不思議に思ってさ」
秋月の語り口は、まるで推理小説の探偵のようだ。追いつめられた容疑者の私は、黙ってそれを聞くことしかできない。
「まずお前が正式名称を知ってるってのも驚きだったけど、『まあ、黒木ならおかしくないか』とも思ったよ」
そう言い、秋月は「空気伝達虚偽認識生理機能過敏反応障害」と長ったらしい病名をすらすら暗証してみせる。
「そらでこんなん言えるの、うちの生徒じゃリアルに発症してる俺ぐらいだと思ってたからさ。井上先生も言ってたけど、別に入試に出るような知識でもないし。まあ、『しがはな』もヒットしたし、知ってる奴は知ってるのかもしれないけどさ」
『しがはな』――確か『四月一日の花嫁』の略称だ。私は読んでいないので、作中で正式名称について言及があるのかはわからない。
「問題は、学年一の秀才・黒木沙也加が、どうしてわざわざ『知らない』なんて嘘を吐いたのか、だ。今までそんなことは一度もなかった。――で、思ったんだよね。あてられたのが俺だったら、やっぱり『知らない』って答えるだろうな、って。いろいろ勘ぐられたら厄介だしさ」
「……たった、それだけのことで?」
「ま、あくまで単なるきっかけだけどね。でも黒木が嘘アレルギーだと仮定すると、いろいろ納得がいったし。普段の、人と距離を置く感じとかさ――あ、だから別に、黒木が嘘アレルギーだから近づいたってわけじゃないぜ?もともとモデルとして目をつけてたのはマジだから」
私の思考を先回りして秋月が付け加える。やはり、その言葉に嘘は無い。
「そうそう、それから黒木がいつも飲んでる錠剤、たぶん症状抑えるやつでしょ?どんどん隠し方が雑になってるっていうか、流石に教室で飲むのは油断しすぎなんじゃない?」
お前、頭いい割にぬけてるよな、という秋月の言葉に、私は思わず赤くなる。
だって、別に「それ何の薬?」とか訊いてくる友達もいないしさあ。