「俺は龍人に頼まれて来たから、お前の言う事は聞かない。ま、お前みたいな胸だけ女は、龍人興味ないだろうけど。」
目を大きく見開き、顔を真っ赤にして歯を食いしばってこちらを睨みつけてくる。その顔は小悪魔ではなく完璧に“鬼”のようだった。今後キャッチフレーズは“完璧な鬼”にすればいい。
「あり得ない!なにムキになってんの?日曜にデートする相手もいないの?モテない男!」
「お前に関係ない。龍人に頼まれたから来た、だから龍人の言うことしか聞かない。それだけだ。」
「龍人、龍人って気持ち悪い。あんた学校でいっつも龍人君と一緒じゃない。もしかしてホモなんじゃないの?キモ!」
「ホモって言うな!」
思わず語気を荒げた。一瞬辻堂はビクッとした顔になる。
「・・・勝手に行きたい所に行けばいいだろ。俺はただ付いて行ってるだけだ。今まで通り無視すりゃあいいだろ。」
「あっそ、じゃあそうするわ。邪魔しないでよね、気持ち悪い。」
言い返してやろうかと思ったが、口をつぐんだ。そして龍人が戻って来た。
「ごめん、ちょっとトイレ混んでた。」
「ううん。全然大丈夫。次どれに乗ろうか?」
辻堂はいつもの作り声に戻り、マップを見ながら龍人に体を近づけた。
「・・・。」
その光景を眺め、何故か急激に冷めた気持ちになり、そして辻堂に対する怒りが無くなった。いや、無くなったと言うより急に虚しくなった。理由は自分でもよく分からなかった。
それから残りのアトラクションに乗り、最後に観覧車に乗る事になった。「高いの苦手だから二人で乗れば。」そう言って辻堂と龍人二人だけで観覧車に乗せた。
「・・・。」
徐々に上っていく観覧車を見つめる。なぜ自分がここにいるのか分からなくなっていた。
その日、辻堂を家まで送った自分たちは、電車に乗って帰った。
「今日はありがとう。助かった。」
電車の中で龍人がお礼を言ってくる。
「いや、大丈夫。どうだった今日は?」
「まあ、特には。遊園地は楽しかったけど。」
その言葉に少し安堵する。
「でもさ、今回はあの辻堂じゃん。遊園地のアピールも半端なかったし。もしかしたら今回ばかりは龍人もぐらついちゃうんじゃないのかと思ってさ。」
「・・・。」
少し考え込むような表情を見せる龍人。
「はっきり言うと何も感じない。こういう言い方すると凄く調子に乗ってると思われるかもしれないけど、好きな女子は今のところ誰もいない。」
調子に乗ってるなんて誰も思わない。むしろ好きな女子がいないことに安心して笑顔がこぼれてしまう。
「それにあの辻堂って子は、二面性がありそう。」
鋭い。
「どこが?」
「見てれば分かるよ。貼り付けたような笑顔をしてくる。」
見ている所はしっかり見ているんだなと、またしても安心した。
「そうだよ、あの女は裏の顔激しいよ。実はさ・・・。」
龍人がトイレに行った時の辻堂の態度を言ってやった。