小説

『ロミオとロミオ』鷹村仁(『ロミオとジュリエット』)

「絶対にダメ!」
 枕を抱きながら思わず口にしてしまう。あんな女に渡すわけにはいかない。必ず今度の日曜日は二人の邪魔をして、引き離さなくてはいけない。

 そして日曜日。遊園地に現れた辻堂岬はミニの白いワンピースを着て現れた。
「お待たせー。」
 手を振りながらこちらに近づいてくる。いかにもアイドル風の恰好をしている。白いワンピースから伸びる、細くて白い手足、スリムな体系なのに出るとこが出ている。周りを見渡すと男たちはみんな辻堂を見ている。
「行こう。」
 そう言って、辻堂が龍人の手を握って入り口ゲートに向かった。
 おい!その手は何だ!恋人じゃないんだぞ!
 そう心の中で絶叫する。
 いかし、我が龍人はそんな誘惑を跳ね返す。入り口を入ったところでサッと繋いだ手を外した。
 偉い。
 小さくガッツポーズをする。恋人でもなんでもないのだから当たり前だ。しかし、いきなりの先制パンチは面食らってしまった。この先も油断できない。
 自分達はまずジェットコースターに乗り、次にお化け屋敷に行き、ミラーハウスに行き、メリーゴーランドにも乗った。その間、明らかに辻堂は龍人と二人きりになろうとして来る。しかし自分はなるべく龍人から離れることはせずに少し強引なくらいに二人の会話の中に割って入っていった。そして売店で食べ物を買ってテーブルで小休止。
「ちょっと、トイレ行ってくる。」
 龍人は立ち上がり行ってしまった。
「・・・。」
 沈黙が流れる。辻堂はこちらを一切見ない。始めから気がついていた事だが、辻堂は一貫してこちらを見ようとしない、まるで空気のような存在として認識しているようだ。きっと邪魔なのだろう。
「あのさ、」
 他所を向きながらこちらに辻堂が初めて話しかけて来た。声が龍人の時より3オクターボくらい低い。
「なんで、あんたが一緒なの?」
「は?」
「邪魔なんだけど。」
 本当にあの辻堂岬が喋っているのかと疑ったが、間違いない。あの“無邪気な小悪魔”が喋っている。
「俺は龍人にお願いされて来ただけだよ。」
「じゃあ帰ってよ。」
「は?」
「腹でも痛くなってよ。」
 平然と言ってくる。もちろんこちらを見ていない。
「私が龍人君狙ってるの分かってるでしょ。二人きりになりたいの。」
「龍人に言えよ。」
「私が言ったら、あんたの事追い払ってるみたいで嫌な奴に見えるじゃん。」
「充分嫌な奴じゃん。」
「は?喧嘩売ってんの?あり得ないんだけど。」

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