小説

『ロミオとロミオ』鷹村仁(『ロミオとジュリエット』)

 勉強の手が完全に止まる。今回のデートの相手は学年一の美少女だった。名前は辻堂岬。高校生のくせにグラビアアイドルなんかやっていて、たまに下世話な二流雑誌に出ている。クラスの男子が教室でその雑誌に群がっているのをチラ見したことがある。もちろん龍人はそこにはいない。ただ胸がでかくてタヌキ顔の童顔で細いだけの女。自分から言わせればただの尻軽の性格の悪いくそダヌキだ。しかし男子からは絶大な人気を誇っている。辻堂岬もその事を分かっているから愛想を振りまいている。そのブリッ子に男共は股間を熱くしている。単純で馬鹿な男達だ。たかだか二流の雑誌ではないか。
「・・・。」
 腕を組んで考える。二流なのは間違いないが、だけど今回のデートはとても危険だ。どんな色仕掛けで龍人を誘惑してくるか分からない。しかも今は夏だ。露出度の高い服を着て来られたらたまったものではない・・・。
 妄想が膨らみすぎて、その後勉強が再開される事はなかった。

 校内のグラウンドにライトがつき、サッカー部がボールを追いかけて走り回っている。立ち止まり、その光景を眺める。目線の先には龍人がいる。
「かっこいい~。」
 隣で自分と同じくサッカー部を見ている女子たちがキャッキャと黄色い声を出している。
「・・・・。」
 思わず睨む。しかし、思い直してすぐに睨むのをやめる。龍人の事になるとついつい性格がむきになってしまう。これでは龍人に嫌われてしまう。黄色い声援をよそに自分はその場を離れた。

 帰り道、そして帰ってからも今度の日曜の事を考えていた。
 ベットに寝転がり悶々とする。
「その気がないなら遊ぶのやめたら?」
以前に勇気を振り絞って言った事もあった。
「でも、ただ遊びに誘われただけだから。」
そう言って龍人は寂しそうな顔をする。その顔を見ると自分が悪い事をしているのではないかと思えてくる。
「でも、向こうは絶対龍人に気があるよ。告白される前に断ってあげた方がいいって。」
「・・・それは自意識過剰な気がする。」
 下を向いて呟く。完全に嫌な奴になっている。そしてこれ以上突っ込むことなど自分には出来なかった。
 スマホを手に取り“辻堂岬”と打ち込む。ヒットしたサイトはたくさんあり、そのどれもが辻堂岬を持て囃している。“無邪気な小悪魔”“かわいすぎる高校生”“迫力満点Gカップ!”などのキャッチコピーで溢れ、面積の少ない水着を着て笑顔でこちらを見ている辻堂の画像が貼られている。
「・・・。」
 腹立たしいが、確かにかわいいし、男が好きそうな顔をしている。さすがの龍人も今回は辻堂岬に惹かれてしまうかもしれない。大人に囲まれて生きている女なのだ、何も知らない高校生など惚れさせるのは簡単かもしれない。

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