小説

『ロミオとロミオ』鷹村仁(『ロミオとジュリエット』)

 生まれついてのものはどうしたって抗えない。近頃の世間は同性愛に理解を示すようになったが、それはやはり少しだ。テレビドラマや雑誌の世界であれば理解し容認できる。しかしいざ現実に自分の周りに同性愛者がいると分かると、しかも自分に気があると分かると心のどこかで距離を図ろうとする。『勘弁してくれ』と。言葉にしなくても雰囲気で分かる。だからその雰囲気さえも出さないように気をつけた。
 好きで同性が好きになったわけではないのに・・・。
 性別なんてなければいいんだ。

 学校の休み時間。
 目の前に龍人(りゅうと)の顔がある。端正な顔立ちをしている。綺麗に整っている眉、笑うと三日月になる目、スッと真っ直ぐな鼻筋、柔らかい輪郭、フワッとした清潔感のある髪型、柔らかな口調。その全てがとてもチャーミングだ。
「輪島、聞いてる?」
「あ、ごめん。」
 龍人が苦笑する。ついついその端正でチャーミングな顔に見とれてしまった。
「悪いんだけど、また頼めないかな?」
「いつ?」
「今週の日曜。」
「・・・。」
 わざと間を置く。龍人は不安そうな顔でこちらを見ている。
「良いよ。」
「良かった~、ありがとう。」
 龍人は素敵な笑顔になる。笑うと三日月の目になるその笑顔がたまらなく愛くるしい。ここが教室でなかったら思いっきり抱きしめてキスをしたいくらいだ。
 チャイムが鳴り、みんな自分の席に着きだす。
「じゃあ、よろしくね。」
 龍人はそう言って、自分の席に戻っていった。もっと話していたい。休み時間10分は短すぎる。

 特に部活動をやっていない自分は、放課後に図書室で勉強して帰るのが日課になっている。勉強しながら今度の日曜日を想像する。
 さっき龍人に相談されていたのはこういう内容だ。
 かなりモテる龍人は、しょっちゅう女子から告白だったり、デートに誘われる。しかし、龍人はすべての告白を断っている。そして今回は告白ではなく、デートに誘われた。それも断ればいいのだが、基本龍人は優しい。デートぐらいであれば誘いに乗る。だが二人きりは少し気まずいらしくデートに付き合って欲しい。
 と、こういう相談。他人から見るといいように使われているのかもしれないが、自分はそんな理由でも龍人と一緒にいられるのは嬉しいし、龍人がデートした女に惹かれてしまうのを阻止することが出来る。しかし、今回はちょっと手強い。
「・・・。」

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