「だからあの日、みんなが忽然と消えてしまったあの日まだ生きてることに愕然として」
たったったった。はっはっはっはっは。
「え？ なんで？ ここってわかったん？」
聞いていると、メロスがどうも公式ツィッターをはじめたらしく。俺にミッション与えたったって書き込んで、人質はまたもやセリヌンティウスやって、付け加えたら民たちが偉い騒ぎになって。みんなが元王やったディオニスを探そういうことになって、どこぞ街で見つけたら投稿したってくださいっていってたら拡散するわするわ、今ここで見かけたでぇみたいなことになって、こういう騒ぎ。
なんていう民や。あれ？ 俺はこういう民に支えられて持ち回りみたいなぽじしょんとはいえ、王をやってたんや思たらほんまにおれはあほやったなって。
今頃、あの頃に思いを馳せてひとり脳内反省会してた。
ディオニスつまり俺と民たちは、とにかく走った。抜けた、駆けた。息をきらして、こんなんメロスに殺されへんでも、ここで命がしまいやないかと思いつつ、みんなで箱根の山を分け入った。みんななんか駅伝ファンやってんて。
一度やってみたかったんですいう民もおって、なんか人の生き死にかかってるいうのに幸せそう。
足くじきそうになっても、誰かが肩を貸してくれたりしてほんまに夢をみてるみたいやった。隣の者の息遣いがいつのまにかこっちの息遣いかと錯覚するほど民たちと呼吸をあわせた。あわせもって、上ったり下ったりしてたら朦朧とした後に、へとへとで王宮に到着。セリちゃん無事やったろうか思ってたら、王宮の前にひとだかり。
どしたん？ 唖然としてたら民のひとりが解説してくれはった。
「この人たちはさっきのツイッター見た人たちのホステージ系、つまり人質希望の人たちなんですよ。セリヌンティウスをころすのなら、まずぼくたちをころしてくださいって。それにこれだけの民たちをメロス王はいくらなんでもあ
やめてしまうことはできないと。彼を切るなら俺たちを切ってから行け的なって、ことなんです」
俺と民たち。己を信じられないことと、他人を信じられないことのボーダーはどこなんだと惑い。それでも今日、俺は他人によって己を信じることができたのかもしれない。かつて俺の民だった者たちに、心の中で潰れそうなハグをした。
長蛇の列のずっと向こうのほうにセリちゃんの顔がみえた。
眼があった。セリちゃんすこし照れたみたいに手を振ってた。
そしてその日からしばらく経って。
メロスいう王の正義は、正義という名の暴力やんっていうことになって。あの正義はうさんくさいで、と、静かな民のエネルギーがメロスを今の王という立ち位置から引きずり下ろさせた。民ってすごい。
そして次の王は、いわずもがなセリちゃんになった。
セリちゃんが王になってから、みんな民たちは夜空を見上げて天体のことばっかりに思いを馳せている。