小説

『エンドレスなメロス』もりまりこ(『走れメロス』)

 それ聞かされた時はわろうたで。俺が王様かいって。ないないあらへんあらへん、そんな時代はけーへんけーへんいうて。そしたら、世界がおわってしまいそうな、メガトンスマッシュ級のトルネードのような磁場の帯のようなフォ
トンベルト的なものがやってきて、ひゅってみんなどこか大気圏外へと吸い込まれてしまいはったっていう噂。これは噂やで。誰も検証とかしてへんから、わからへん。ほんでようわからんけど俺、生き残ってしもた。マチュピチュみ
たいに滅んでしもて。あそこも人口最大750人ぐらいやったっていうから、うちもそんなもんちゃうやろうか。
 だから適当に、王みたいな役割って感じでいろいろ仕事してたら、いやなもんはいややし、やりたないし、すきなもんはすきやろうって。そんなんあっちも好きこっちも好きいうてたらきりないやん。
みんな俺のことあほや思ってんねんな。お前は王にふさわしくないって視線ねちねち送って来ては、俺の命令に従わへんの。いちいち反対しよる。
 側近はこのままでは民が、惑うばかりですとかって言い抜かして、そんならオマエが王になれやっていうたら、わたくしは指定生存者じゃありませんので、と鼻で笑うねん。だから勝手にしたれいうて日々を送ってた。
 予算ひとつきめるのもわやでっせ。あんだけ大きな災害おきたよってに、もういくらなんでももう起こらへんのんとちゃうのって、ちょっとそっち系の予算減らしたったら、側近怒る怒る。生き残ったお年寄りにやね、もっと福祉にお金廻してもええんちゃうのとか思うやん。んでそんなこんなで、あんたはすかんからクビでっせっていうてるうちに誰もおらんようになって。
 そんな時やった。メロスと出逢うてん。あれは出会いがしらに近いな。だからメロスとの出会いは、ちょっと憶えてる。メロスが突然、えらい荷物抱えて、銅鍋とかウェディングドレスとかその他もろもろ担いで、旅人の格好して俺の所にやってきてん。
「あなたはここの持ち回りの王かもしれませんが、そんな横暴なことしてたらここ滅びますよ」ってのたもうた。滅びるいうけど、ここはもう滅びきった後の祭りやのに、メロスはまだ未来をみててんな。
 家来の意見が嫌いとか好きとかで判断してたら、ダメなんですいうて。じぶんの意見と違うことを受け居られないのは、あなたがそもそも人を信じてないからじゃないですかって泣きじゃくってた。なんで泣くん?
 メロス、股旅者のくせに双子の妹がここに棲んでるとかだけで、えらいこの国の未来にまで口出してきて、それやったら俺を信じさせてみぃいうて凄んだったら。いいですよって二つ返事や。んで、離れ離れになってた妹、レロスの結婚式にはぜったい出たいいうて3日くれたら、ぜったいもどってくるからって。その代わり大事な友達、セリヌンティウスをあなたの側においていきますから。俺がぜんぜん期日までに帰ってこなければ、そいつをころしてくださいって。
 俺なんかよりよっぽどコイツの方が狂ってる思たわ。自慢やないけど、俺はころしてへんしね。あんたクビやでしかいってへんもん。んで、 え? え? そんな物騒なって思ったのも束の間、ひゅってメロス走っていきよった。で残されたのはセリちゃんと俺。
 なんかどうする? いうて。
 ある満月の夜。セリちゃんが空を見上げてた。

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