小説

『冷めてゆく紅茶に涙をひとしずく』いわもとゆうき(『マッチ売りの少女』)

「あの街は他の国にはないの?」
 とわたしは気になって尋ねた。
「今のところはまだ」
 と少女は答えた。
「そうなんだ」
「まずは必要な国につくったようです」
「そう……また、いつか、君に頼めるかな?」
 すると少女はコートの内ポケットから名刺を取り出してわたしに差し出した。わたしはそれを受け取った。そこには電話番号が書いてあった。
「君専用の電話番号なんだね」
「はい」
「君の頭に直接繋がるのかな?」
「仕事中以外は繋がります。二度目は足を運んで頂かなくて大丈夫です。財団が用意してくれますから」
「うん、わかった」 
 わたしは名刺を上着のポケットに入れた。
「それにしてもこれは魔法なのかい? それとも、催眠術みたいなものを利用したマジックなのかい?」
 わたしは興味をおさえられずに聞いてみた。
「科学技術です」
 と少女は明快に答えた。
「すごいね。それじゃあ、この流行りの病気のことは何かわかっているのだろうか?」
「息子さんもそうだったんですね」
「ああ」
治療方法がない病気だった。感染経路もまったくわからない病気だった。
「君はこの病気について知ってることはあるのかな?」
「いいえ、ほとんど何も知りません」
「そう……」
「ただ」
「ただ」
「自然にはその目的と理由があるのだと思います」
「また何か間違っているのかな、われわれ人間は」
「間違うのが人間です。それはある意味、間違ってはいないのです」
「確かにね。それじゃあもうどうしようもないわけだ、人間は」
「恐らく」
「どうすればいいんだろうね?」
 とわたしは自嘲気味に言った。
「心を込めて生きることだと思います」
 と少女は言った。
「心を込めて生きる」

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