小説

『疑似恋愛』太田純平(『擬似新年』大下宇陀児)

 こうして、私は長い疑似恋愛の旅から帰還した。
 下らない。実に下らない。
 ちょうどイイ具合に、検品作業も終わりを迎えていた。
 私は目の前の二人を見て、内心、ニヤニヤを抑えるのに必死であった。
「ハイ。お検品のお作業お完了いたしました。えーっと、お伝票におサインですよね?」
「えぇ、この右下のところに――」
 私が渡した紙に、男がササッとサインを書いた。私は新年らしい口上を述べた後、部屋を出て行った。
 階段を下りようとして、ふと、部屋の中に目をやった時だった。
 女のほうが、中年男の首にまとわりつき、突然、頬にキスをした!
 私は驚きのあまり石化して、これが現実なのか妄想なのか、理解するのに検品よりも時間が掛かった。

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