まあ、いいか。この思いが変わらないうちに、王に会った方が。
天井がやたらと高い部屋に通され、私だけが残された。人が来る気配がしたので、深く頭を下げて待つ。
「そなたが、かぐや姫か。面を上げよ。」
顔を上げると、王が、一人で立っていた。
「できました。」
卯野の声で、我に返った。私は、銀のたれがついた、きらびやかな帽子をかぶっている。帽子には、月の王家の紋章が、刺繍されていた。
「…かぐや様は本当にお美しい。先王が一目でお気に召されたのも分かります。」
「優しい方だったのですよ、王は。」
実際、月の王は、会う前に抱いていた印象とは、随分違っていた。
初めて会った時、私は、月の両親がかぐやにした仕打ちを、「報告」した。王にとって、これがもし「当たり前のこと」なら、私は処刑される。でも、どうしても伝えたかった。
子どもにこんなことをしていては、月に未来はないと。
王はとても驚いていた。そして、深々と頭を下げたのだ。
「そのようなことになっているとは、知らなかった。本当に、すまなかった。」
そう言って、王は私の手を撫でた。
次の日、私は777番目の妾でなく、正室として宮殿に迎え入れられた。
「…かぐや様、お時間です。」
「わかりました。行きましょう、卯野。」
卯野は、私が衣を踏まないよう、気を使ってくれながら、出窓へと案内した。
大勢の人の声が、近づいてくる。
窓の外には、宮殿の庭、門の外、そして空にも、民衆が、集まっていた。
卯野は外を見、私の方を向いて小さく頷くと、勢いよく扉を開けた。
「皆の者、月の新王、かぐや様のおなりです!」
かぐや、私は今、月の王として、ここに立っています。
私は、月に来てから、先の王の正室として、王をお助けしてきました。王は、ありのままの私を受け入れて下さり、私はかがむことなく、のびのびと居られました。先日、王がお亡くなりになり、王の側近だった者たちの推しもあり、私が王を継ぐこととなったのです。
本当に幸せ。ありがとう、あなたのおかげです。
かぐや。あなたが今、帝の腕の中で、この月を見ていることを祈ります。そしてこれからも、愛に満ちた光の道を、歩んでいけますように。