沈黙が流れる。やがて、二人とも顔を上げて、お互いを見つめた。
分かっていた気がする。出会ったその時に。
でも、きっとかぐやは言えない。今はもう、私達を愛しているから。
「かぐや、一つ提案があるのですが。」
「…かあさま。それは…」
止めようとするかぐやの手を握り、私は笑顔で答えた。
「大丈夫です。私が望んでいたことなのだから。あなたと出会う、ずっと、ずっと前から。」
「かぐや様、お支度は整いましたか?」
「ええ、卯野。」
私はいつもの椅子に座り、鏡を見る。そこには、少し緊張した面持ちの、四十前の女がいた。卯野はその後ろに立つと、私の髪を結い始めた。
月の使者が、かぐやを迎えに来たその日、帝が配した何千の兵も役には立たず、彼らは屋敷の中へと降りてきた。
「約束の日だ、かぐや姫、出でよ。」
頭の中に直接響く声だ。きっと私達の居るところは分かっている。
「…本当に、いいのですか?」
「ええ。」
私は、かぐやから、小さな丸い金のついた、首飾りをかけてもらった。その金の裏には、何か知らない文字が彫ってある。
「ここには、月の光が入っています。これは、私の目印。」
「私がつけても、そうなの?」
「大丈夫。これで、あなたが、『かぐや』です。」
「もう、お別れですね。」
「王の部屋からは、ぼんやりとですが、こちらを見ることができるらしいです。」
「…がんばらなくちゃ、いけないわねえ。」
かぐやが、ふふ、と笑った。
「では、『かぐや』、さようなら。晴れた夜には、必ず月を見ます。」
「さようなら。幸せになるのですよ。」
そうして私は、例の帽子を着て、月の使者の前に出た。
「かぐや姫。本当に美しくなられた。さあ、参ろうぞ」
全く気付いてない。私は帽子の中で、笑いをこらえた。
使者もその周りも、凄く光っていた。そのため、どんな乗り物に乗って、どうやってきたのか覚えていない。ただ、思ったより早く、月の王の宮殿に着いた。
「王が、お会いになられます。」
え、もう?