「そう、じゃ、ない。アタシが、お・かあさまみたいに、キレイじゃ、ナイ。」
「?」
美醜でいうなら、顔なのかと思ったが、違うようだ。
「叩いて、伸ばシテやるって。そしたら、もっと、長くなるって」
餅じゃあるまいし、叩いて伸びないだろう。「長く」って、竹みたいに背が高いの?
「アタシ、我慢できなくて、逃げタ。悪いコドも。」
「…悪くない、あなたは、わるくない。」
思い余って言った。子は、私の背中で小さく震えていた。私は、彼女の尻をとん、とん、と軽くたたきながら、黙って家まで歩いた。
子は、また眠ったようだった。
「芋を、食わせてやったらどうか。」
振り向くと、翁が立っていた。彼は、静かに子のそばにかがむと、乾いた手で髪を撫ぜた。
「飯を食って寝れば、きっと良うなる。明日、儂が竹を取ってくるで。」
「…はい。」
娘の細い御髪が、さらさらと頬にかかる。その顔は安らかで、とても綺麗だった。
次の日、翁は腰が痛むと起きてこず、私が山に入ることになった。いつものことだ。あの子が入っていた筒、誰かに見つけられたのではないか。私は、子がまだ眠っているのを確かめてから、昨日の場所へ急いだ。
良かった。まだある。誰かが触った跡もない。虫や獣さえ近づいていないようだ。もしや、触れたものは全部、これに喰われたとか。あの子もこの大筒も、どう考えても、この世のものとは思えないし…。恐る恐る中を除くと、普通の竹の中のように、白く空洞だった。なあんだ、と思った次の瞬間、その底が、強い光を放った。喰われたか、と思ったが、目を開けると、周りはもとの竹林で、筒の底には、ぎっしりと金のようなものが詰められていた。
…本物?
落ちていた棒切れで、それをつつく。大丈夫だ。手に取ると、小さなものでもずっしり重い。私は翁よりは力持ちだが、さすがに全てを一度には運べず、何度か通わねばならなかった。翁には、竹を切ると出てきた、と話すと、何を問うこともなく、これでお前も、たくさん飯が食えるぞ、と子を抱き上げてはしゃいだ。
その日から、翁は毎日精力的に動いた。家来を雇い、屋敷を立てる手配をし、近所の者へも、米や絹を配った。私が連れ帰った子のことは、天から娘を授かった、儂が竹取に行くと、光る竹があってのう…と、さも自分が彼女を見つけたかのように吹聴してまわった。一方で、翁は、毎日のように、子へ「腹は減っておらぬか?」と声をかけ、毬やら面やらをもってきては、彼女を笑わせようと歌い踊った。子は、次第に笑みを浮かべるようになり、お馬さんだの、高い高いして、だの翁にせがむようになった。
そのような日々を過ごすうち、子の傷は癒え、その身体は、元のふくらみを取り戻した。
「もう立派な姫さまですよ。なんと美しい。」