小説

『アロンアロンアンドアロン』もりまりこ(『月夜のでんしんばしら』)

 だからなのか、よくニュースでみかける光景を俺も体現するはめになった。
 つまり、線路をよなよな歩くのだ。いつもひとごとやったのに、どないすんねん俺って思いつつ、その会場を後にしたみんながぞろぞろと歩いていた。
 列をなして。
 ライティングは満月。
<オッケーグーグル、あの満月をもっと照らして>
 ふと前をみると少し年老いた男の人が歩いていた。歩きなれているのか、足取りは軽やか。
 ふいに振り返るのでびくっとすると、彼は微笑んだ。
 あいまいに俺も微笑む。
「お若いのにあなたもおひとりですか。ゲンジロウ君の踊りみましたか」
 俺に喋りかけているのだと気づいて「ええ」と答える。闇の中の取引きみたいでそれなりにわくわくする。
「この列のみなさんって、みんなおともだちのいないひとばっかりでしょう。
そういう人たちの底から湧き出るエネルギーたるや凄いですよ」
 あまり意味がつかめなかった。
「だから、今日。ぴたっとゲンジロウさんの踊りが終わった途端に停電になったんですよ。わたしはそう信じてますよ」
 話がやっぱり見えない。会場レベルのブレーカーを落としてしまうほど、ひとりひとりのエネルギーが強すぎるってこと? つまり?
 前を歩く彼の口元から溜め息が漏れて、いっしゅん空気が白く抜けた。
「ついこの間、妻を亡くしましてね」そう彼が言うから、通り一遍であっても、それなりの言葉をつながなければと思っていたら急に「きのう、キリンが砂漠を歩いている姿をテレビで観ていたんですよ」とアングルが変わった。
「水をもとめてさまようんですよ、なんていうかその歩き方にじんときてしまいましてね」
 行進のような形の列の彼の背中から聞こえてくる声は、闇の中に吸い込まれては生まれてゆく。
「朝になる前の霧深い場所まで彼ら親子は、生きるために互い違いに並んで歩いてゆくんですよ。乾いた過酷な現実なのに、淡々と。悠然と歩いてゆくんです。きょうのわたしたちのようにです。途中、雨の降らない砂漠で骨だけになった仲間が映し出されましてね、わたしもアラカンですからね。いちいちああいう映像は身に堪えるんですけどね。アラカンはわたしだけじゃないって思いなおしてずっとみてたんです」
 俺は真っ暗闇の中で砂漠のキリンを思い浮かべようとつとめた。どういうシチュエーション? この列のはじまりにはあのカノゲンがほんとうにいるのかさえ。はるか先頭は遠くてとおかった。
 その初老の男の人は息を深く吐くと喋り出す。

1 2 3 4 5 6