「それなら差し上げます」
なんて生意気な奴――。僕がイラッとした刹那、その男は続けた。
「自分の書いたものを読んで、素直に楽しんだり、泣いたりしてくれたら、それでいいんだ」
「……」
僕は、あの日の崖の上を思い出した。あの日、僕が得て、僕が失ったものはなんなのだろう……。
僕はディスプレイをもう一度見つめた。まだ、OKITEの話題が続いていて、夢幻童子のOKITEから『裸の王様』をマイニングした女子大生のインタビュー録画が流れていた。彼女のOKITEに対する熱い想いが、僕をどうしようもなく責め始める。僕は一体何を仕出かしてしまったのだろう……。
「ふうっ」と息を吐くと、首に巻いたマフラーを取った。そして、そのショートショートショート作家の寒そうな首筋にマフラーを巻いた。いつかの僕のようにファストファッションで身を固めた男の胸元には、そこだけ異次元感のある金色のクルスが掛かっていた。どこかで見た気もするが、思い出せない。
「本のお礼に、貰ってくれないか?」
男はニヤリと笑った。
「寒いんじゃないですか」
「いや、寒くていいんだ」
僕は帰路につくため、立ち上がった。
「そうだ。裸の王様にも良いことがありますよ。なんだと思います?」
何かを感じ取ったのか、男が去り際の僕に尋ねた。
僕は無言で立ち尽くした。
「どんな服でも着れる」
男が答えを言った。
マフラーの温もりが無くなった僕の首筋を、寒風がピリリと引き締めた。