小説

ネイキッド! ネイキッド!』十六夜博士(『裸の王様』)

 そんなことはわかり切っている。僕はグイッとグラスを飲み干すと、そのバーを後にした。

――ちょっと酔ったかな……。
 バーを出て、都会の夜に飛び込むと、ネオンに頭がフラッなる。しかし、ヒューと冷たい風が僕のボヤけた頭をシャキッとさせた。マフラーをしっかり首に巻きなおし、駅に向かう。
 駅前に近づくと、ビルに取り付けられた大型ディスプレイが深夜のニュース番組を放映していた。聴き慣れた単語が聞こえるので、足を止めて、ディスプレイを見る。
 キャスターとコメンテーターが話している映像に、『夢幻童子のOKITEから、新たなストーリー!』とスーパーインポーズされた文字が表示されている。
――まだマイニングしてるのか……。
 ニュースで話題になるのも凄いなと改めて思うとともに、少し申し訳ない気持ちになった。
「熱狂的なファンの女子大生が見つけたそうですよ」
 突然後ろから声がした。
 振り向くと、道端に作品を広げている、売れてなさそうな芸術家が座っていた。売れてなさそうと思ったのは、こんなところで作品を売っているのは、売れてないからに違いないと思ったからだ。道の端とはいえ、こんな駅前だと迷惑だろと思い、眉をしかめる。だが、直ぐにちょっとした興味を持った。絵を描いたり、詩を書いたりと、すぐに価値がわかるものを並べるのが常だが、手製の宣伝ボードには、『ショートショート』と書いてある。短時間で読めるとはいえ、ここでショートショートを読んで買う人がいるとは思えない。だが、自分が小説に関わっていることもあって、一冊手に取り、パラパラとめくった。
「新たにマイニングされた作品は、『裸の王様』に近い物語だそうですよ。笑えませんか?」
 尋ねもしないのに、そのショートショート作家は言った。『裸の王様』と言ったら、誰でも知っているバカな権力者の話だ。そんな話がマイニングされるとは確かに皮肉だな、と思うとともに、正直、ドキッとした。
「夢幻童子のこと、どう思う?」
「まあ、まさに『裸の王様』でしょうね。ここ数年、駄作ばっかりだ。みんな、そのうち気付くんじゃないですかね。まあ、夢幻童子だけじゃない。世の中、力を持った後、出がらし、慢心に陥った裸の王様ばかりですがね」
 その男の明け透けな批判に、僕は少し腹が立った。自分で思っていることほど言われたくない。しかも、売れない小説家気取りに。だが、僕も大人だ。こんな雑魚に腹を立てていたら大人気ない。僕は力の差を見せつけてやろうと思い、「じゃあ、一冊いただくよ」と、財布からありったけの札束を出した。10万円以上は軽くある。こいつにとっては、喉から手が出る大金のはずだ。
 その男は、僕を上目遣いで見ると、ニヤッと笑った。
「こんな大金いりませんよ。一冊、千円で」
「千円なんていう小銭、持ってないんだ」
 僕はまだマウンティングを続ける。

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