小説

ネイキッド! ネイキッド!』十六夜博士(『裸の王様』)

 OKITEは、僕の予想外の現象も引き起こした。ファンのコミュニティが、OKITEには物語が隠されていると、僕が適当に作ったランダムな文字列の解読を始めたのだ。ある規則を仮定してOKITEから文字を抜き出すと物語が出来るらしい。彼らを世間ではOKITEマイナーと呼んでいた。ビットコインのマイニングと同じで、掘り起こす人を意味している。そして、いくつかの隠れた物語が見いだされ、ファンは盛り上がっていた。
――ひとたび力を持てば何でもありなのだ。
 今回の僕の企みでそれが証明された。
 だが、一通り笑い、楽しんだ後、複雑な気持ちにもなる。何だっていいのなら、もう創作意欲なんてこれっぽっちも持てやしない――。

 複雑な気持ちを抱え、創作意欲をなくしたまま、僕はしばらくダラダラと時を過ごしていた。
 いつものように、テレビをボンヤリ見ていると、先日、ボロボロの作品を100億ほどで売っていた芸術家が一転吊るし上げられていた。どうやら、その話題の作品は、自分が作ったものではなく、弟子が適当に作り、ボロボロに加工したとのことだった。さらに、5年の歳月をかけたというのも大嘘。なるほど、そりゃそうだ、と思う。これからビリビリに破き、ペンキを投げつけるつもりの作品を真面目に描くわけがない。内部告発でわかったらしいが、100億で購入した愛好家が訴訟を検討しているという。
――良いと思って買ったんじゃないのかよ……。
 嘘をついた芸術家も芸術家だが、作品を見る目のなさを恥じることもない愛好家にも腹が立った。この前、その作品を『新境地!』と絶賛していたコメンテーターが複雑な顔をしている。言葉も少ない。一方で、作品の良さが分からないと恐縮していたコメンテーターが本質的なことを言った。
「僕らは、もう少し、自分の気持ちを信じた方が良いのかもしれませんね。良いと思わないものを、わかった風に褒めたりしないで、大御所の作品でもしっかり批判するのが大切なのでしょうね」
 結構、ドキッとした。考えてみれば、僕だって、この芸術家と同じかもしれない。いや、同じだ。夢幻童子の力で、今は何をやっても許されるが、ひとたび誰かが批判を始めたら……。
 僕はテレビを消した。

 モヤモヤとした気分を解消しようかと、夜の都会に繰り出すことにした。
 夕飯を食べた後、バーのカウンターで1人グラスを傾けた。
 巨万の富があっても大して嬉しくもない――。これが実感だ。僕の場合、他人の七光りでこうなっただけで、何の達成感も感じていないことに今更気付く。
――僕はバカだな……。
 僕の前でバーテンダーがグラスを丁寧に拭いている。拭きあげたグラスをライトにかざした。ライトの光がグラスで弾ける。ちっぽけな仕事にも見えるが、大切な仕事だ。バーテンダーの顔が何故か誇らしげに見える。
 グラスを拭くだけのちっぽけなルーティンと思うのか、自分の生業を支える仕事と思うのか。彼の思いはどっちなのだろう……。

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