小説

ネイキッド! ネイキッド!』十六夜博士(『裸の王様』)

 夢幻童子になって、2年が過ぎた。あっという間だった。作品が売れるのが楽しくて、これまで書いてきた自信作を2ヶ月ごとに出していった。もう10作以上が出版されている。全ての作品がミリオンを達成していて、もう僕は使い切れないほどのお金を持つ富豪になっていた。旅行に行く、美味しいものをたらふく食べる、女性と遊ぶ、高級車を乗り回す、金のかかることは何でもやった。しかし、一通りやると、思いもよらず、飽きてもきて、普通の生活に戻っていった。意外と成金になれない自分に驚き、王様のような生活って意外とつまらないのかもな――、などと思う。そうなってくると、自分の作品に目が向かう。そして、最近、贅沢な悩みを抱え始めた。自分としては自信がない作品も絶賛されることに……。
――僕の作品はちゃんと読まれているのか……?
 何を書いても絶賛されるのは楽なことかもしれない。だが、絶賛されるのが当たり前になると創作意欲がなくなっていく。自信作でないものが評価されれば、なおさらだ。何をやっても同じなのではと創作意欲はさらに減退する。あの男が夢幻童子を僕に譲ったのはそういうことかもしれない――。僕はそんな事を考えるようになっていた。

 ある日、都心にある豪華な最上階の部屋で、創作意欲を持てないまま、テレビを見つめていると、有名な芸術家の作品が取り上げられていた。その芸術家の最新作。確かに、奇抜だった。5年に渡り製作してきたという珠玉の油絵を、ビリビリに破いて、ペンキを浴びせかけたというアナーキーな作品。その映像を見ると、これって芸術なの?と疑いたくなるほど悲惨な状況だった。しかし、あるコメンテーターは、『新境地!』と絶賛していた。一方、一部のコメンテーターは『私のような下民には理解できないです……』と自分を卑下していた。だが、全体的には賞賛する流れになっている。オークションで100億ほどの値段がついたらしく、それを理解できないと言ったら、美意識がないと自ら認める自殺行為に他ならないからだろう。
 それを見ているうちに、世に中はそんな事で溢れている気がしてきた。国の権力者、政治家、業界のドン、会社のお偉いさん……。巨匠と言われる芸術家だけではなく、権力を持ったものはみんなが理解できない行いを、善行、芸術と称してやっている。力を持てば何をしても許される――。
 僕は、あるアイディアを思いついた。アイディアというより、イタズラに近い。何をやっても賞賛されるなら、もう真面目な創作は辞めて、みんなを翻弄させて楽しもう――。王様のような暮らしに飽きていた僕は、久しぶりにワクワクした。世の権力者、大御所たちもこんな気持ちなのかもしれない。少なくとも、あの芸術家はそうだ――。僕は早速作業に取りかかった。

『いやー、これは凄いですよ。夢幻童子は小説という概念をアップデートしたと言えますね。まさに、小説2.0と言えるのでは』
 有名な芸術コメンテーターがワイドショーで熱く語っている。
 それを見ながら僕は笑いが止まらない。僕の最新作がまたまた絶賛されていた。だが、今回の最新作は、これまでと全く違う。適当に、ランダムに、ひらがなを並べただけの作品。その割に、400ページ近くある大作。当たり前だが、製作は超が付くほど簡単だった。その作品が絶賛なのだ。タイトルは適当(tekito)を後ろから読んだら読めなくもない意味深なOKITE(オキテ)とした。

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