私が、頭からっぽにて歩いておると、前方道路の隅っこに数羽のカラスが固まって、何やら滅法クチバシでつついておる。私が近づいて行っても一向カラス達に逃げる気配はない。はてな? 、何をつついておるのか覗いてみると、何故こんな所に? 、甲羅に身を隠した一匹の亀がおった。神社の池とかにおりそうな何の変哲もない亀である。その甲羅をカラス達が矢鱈滅法つついておる。ひょっとこして亀の肉はうまいのかしら。甲羅を割って食べる気かしら。カラスさん達、ならば私も手伝いましょうか? そのかわり少々私にも亀の肉を分けてけろ。と私は、たまたまそばに落ちていた鉄パイプを手に取り振り上げた。すると、何て事でしょう、カラス達は何を勘違いしたか、驚いて一斉に飛び立ってしまった。そして皆でアホーアホーと私の事をバカにしやがる。ムカついた私は手にする鉄パイプを、カラス達めがけて投げ槍のごとく、思い切り投げつけてやった。すると鉄パイプは的を外して民家の窓ガラスをガチャンと割った。ヤバイ! 逃げろ!! と私が走り去ろうとしたその時、
「悪いカラス達から救って下さり有難うございます」
「はっ⁈ 」
私は声のする方へ振り向いた。誰もいない。
「ここですよ太郎さん」
決して私は太郎なんて名前じゃないが、声のした下方に目をやった。
「はっ⁉︎ 」と私は二度目の、はっ、を発した。亀が立っておる。
「さあ太郎さん竜宮城へ参りましょう」
「はっ⁇ 」は、ついに三度目となった。
「何を遠慮してるのです太郎さん早く竜宮城へ参りましょう」
「どうでもいいけど俺は太郎じゃない」
「そんな事どうでもいいじゃないですか太郎さん、さあさあ」
「だから…… 」
「さあ太郎さん、浦島太郎さん」
「ふっ、ベタだね」鼻で笑ったった。
「言ったなこの野郎! せっかく人が… いや失礼、亀が親切にも竜宮城に連れて行ってやるって言ってるのによ! 行く気がないならないですぐに言いやがれ! このすっとこどっこいが」吐き捨てるよう言う。
「まあ待て、誰も行かないなんて言っちゃない。で、やっぱ竜宮城に行けば別嬪さんやら御馳走やらで随分もてなしてくれるのか」
「そう、もしや行く気になった? それはそれは酒池肉林でございます。さあさ、参りましょう」
「それでどうやって行くんだ? 甲羅に乗るにしてもお前の甲羅じゃ小さすぎないか」
「歩いて行くんです」
「あ、る、い、て、? 」
「そうです歩いてです」
「何だ近いのか? 」
「亀の歩みについて来てもらって… まあざっと五十年ほどであります」